同乗していた経営者の責任はどうなるか

私は小さな卸業を経営し、代表取締役になっています。会社はライトバン型の自動車が一台あり、昼間は営業、配達などに利用し、朝晩は私が自宅と店との間の送り迎えに乗せてもらっております。もちろん会社が雇っている運転手が運転しております。店から帰る途中、人身事故を起こしてしまいました。莫大な損害賠償の請求がありました。会社は小企業ですのでとても払えません。被害者の遺族は、同乗していた私個人にも経営者として損害賠償の義務があると主張しております。私個人としてはいくらか資産もありさすが、ほんとうに支払いの義務を負わなければならないでしょうか。

 会社が、賠償責任を負担することは、自動車損害賠償保障法の三条によっても、あるいは、民法七一五条によっても同じことです。しかし、会社の代表者個人は責任がないのが原則です。自動車の所有者が会社で、運転手の雇い主が同じく会社ですから、会社が使用者として、あるいは自動車の保有者として、賠償責任を負うことになります。

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世間にはよくあることですが、会社は借家ずまいで借金だらけ、被害者が損害賠償を請求しても一銭も取れない、しかし代表取締役は不動産も預金もたくさん持っている、ということもあります。またヒドイ人になると、事故を起こして、何百万円と請求されるや、会社をつぶして第二会社を設立し、損害賠償債務までフミ倒してしまうこともあります。このばあい商売上の債務は、前と同じ商売を続け、また信用を維持するために、新会社が引きうけ、被害者に対する支払いだけゴマかしてしまうということもやります。
 被害者は何百万円という支払いを命じた判決をもらっても、モヌケのカラの会社やアパート住まいの運転手が相手では、一文も取れません。したがって小さな会社が相手のときは、代表取締役個人に対しても、責任を追及してくるのが通常です。
 個人企業とほとんど変わらない会社の自動車は、代表取締役の通勤の送り迎えに用いられるほか、その個人の私用、家族のレジャーなどにも使用されることは十分に考えられます。また、会社名義にしておくと、ガソリン代や減価償却が費用として落とせるため、個人用の車を会社名義にしておくことも世間にはよくあることです。
 自動車損害賠償保障法三条で「運行供用者」として賠償義務を負担する者は、たんなる自動車の所有名義にとらわれず、使用の実質にもとずいて判断され、きめられるのです。したがって、その自動車の使用によって、実際に利益をうけていたものはだれか、などということも判断の基準になります。またその自動車の使用についての支配権の程度も同様です。
 会社に通勤のための送り迎えは、社用であるといってもよいし、また個人の用であると見ることもできます。
 会社の事業が、名義にかかわらず、代表取締役個人の営業と変わりないということも世間にはあります。このような場合、代表取締役は自動車の運行供用者、あるいは使用者(会社)に代わって業務を監督する者(代理監督者)であると見られ、送り迎えの途中に起きた事故につき、損害賠償責任を、個人として負担せねばならないハメになります。ですから、本問の場合は、個人としても賠償義務を負わねばならないこともあると思われます。

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