自動車の名義貸人の責任と盗難車が起こした事故の責任

建材業者Nは事業に失敗し借財が多いため、自己名義で自動車をもてば強制執行を受ける危険性が強いので、とくに建築請負業者M社に依頼して、M社名で自動車を買 い入れ、同名義で強制保険に加入し、ボディにも同社の名称を入れさせてもらいました。その代わりM社には商品を優先的に納入することにしていました。もちろん保険料、税金などすべてはNの負担であったことはいうまでもありません。この自動車が事故を起こしたときはM社に責任はあねのでしょうか。

 商法に名板貸しというのがあります。
「他人に、自己の名前または商号を使用して営業をすることを許した者は、自己を営業まであると誤認して取引した者に対して、その他人と連帯して責任を負わねばならない」という規定です。
 これは商取引上のことですが、従来から自動車事故などのような不法行為にも、この名板貸しの立法趣旨をくんで、名義人に使用者責任を負わせてきました。
 本問の自動車は、実質的な所有者はNですが、M社はその車両名義その他の関係をとおして、Nの事業を協同推進してきたものというべきですから、NについてはもちろんMについても自賠法三条の運行供用者と認められます。
 それでは、車両登録名義人ではあるが責任はないという場合がないのでしょうか。全然ないわけではありません。たとえば、自動車を譲渡した人が手続上の関係から名義人になっているだけで、車体の表示も譲受人にかわっており、実質的な支配関係共同関係が全然ないような場合、所有権留保付売買の場合などです。
 しかし、後者の場合でも、売主が買主に仕事を斡旋してやったりして協力関係があれば別問題で、こんなときは売主にも運行供用者責任があり得ます。
 こうした例外はありますが、総体的にいえば、名義を貸すことは責任を負うこと、危険をかかえこむことといえます。たわむれに名義は貸すまじきものと心得ていてください。

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盗難にあった車が事故を起こしたときなどは、責任はないでしょうか。
 経営者たるもの、自動車をもつ以上、事故を起こしたら大変です。しかも責任はますます大きくなる方向へ発展しています。
 自動車は街頭の凶器です。走る凶器です。原付自転車であれダンプカーであれ、凶器であることにはかわりなく、このことは毎日の痛ましい犠牲者が身をもって社会に訴えています。これを運行し支配するものは当然その危険に対し責任を負わねばなりません。
 一方自動車は文明の利器です。能率的な利器です。いまさら自動車がない生活なんて考えられません。仕事上はもちろん、生活のエンジョイにも、クルマの果たす役割はかぎりなく大きくなっています。普段の生活において、クルマはどれだけすばらしくしていることか。現代に生きる者は幸せです。
 これを運行し利益を受ける者は当然、その利益に対するお返しを覚悟しなければなりません。
 危険責任と報償責任、これが自動車の運行供用者に重い責任を負わせるのです。クルマは、凶器と利器の両刃の剣です。私たちは好むと好まざるとにかかわらず、この現実に目をそむけてはなりません。
 さて、盗難自動車の場合、泥棒運転のケースを考えてみましよう。
 広い意味の泥棒運転には二つのタイプがあります。
 一つは被用者による無断私用運転です。無断である点で泥棒の一種であることに間違いありませんが、これらの事故についてたいていの場合、使用者、経営者に責任があることは、前に述べたとおりです。
 もう一つは第三者による文字どおりの泥棒運転の場合です。これこそ、犬にかまれたようなもの、この事故については責任はありませんよ、と断定したいところですが、無条件にそうともいえません。 たとえば、ドアをあけ、鍵をかけっぱなしにして、さあ盗みたまえというような状態にしておいたときは、やはり保有者としての責任、あるいは保管についての過失責任が問われることもあるでしょう。
装置を施さず自動車から離れた場合、公共職業安定所から差し回された人夫が無断運転した事故について保有者に責任を負わせている判例もあります。
 自動車の管理保存に過失がなかったのに盗難にあったというときは、泥棒が運行供用者であり、持主に責任はないことになります。 

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