被害者の息子の過失のために事故が起きたとき
交差点で出合いがしらの衝突をし息子さんの車に同乗していた父親を死亡させました。この交差点は、信号機は設置されていませんでしたが、相手の道路には一時停止
の標識がありました。息子さんの方が私の過失と比べるとけるかに過失の度合いが多いように思いますので、父親の損害を全額支払う必要が無いように考えますが、相手方は「息子と父親は別だから」と言って減額にはなかなか応じてくれません。息子さんの過失を、このような場合、斟酌してはいけないものでしょうか。
息子と父親というような血縁的な関係があったとしても、本来人格は別であり、息子の過失を直ちに父親の過失と結びつけることができないのが原則です。
ところが、不法行為による損害賠償請求において、もしそうだとすると父親の損害額を全額払った加害者は、あらためて息子の過失に相当する割合部分の損害額を息子に求償することになります。息子がその損害相当額を加害者に支払えば、最初から父親の損害額から息子の過失相当応分を過失相殺したのと同じ結論になるので、このような回りくどいやり方をせずに被害者側の過失として最初から過失相殺を適用し減額しておいた方が、時間や労力を省くという訴訟経済上の要請にもマッチすることになります。
そのため、民法七二二条の「被害者に過失ありたるときは裁判所は損害賠償の額を定むるに付きこれを斟酌することを得」という規定は、単に被害者本人の過失のみではなく広く被害者側の過失をも包含する趣旨と解釈されています。これが、いわゆる「被害者側の過失」と言われる概念です。
さて、実際の取扱いで一番問題となるのは、「被害者の側にはどのような範囲の人を指すのか」という点です。この範囲に関しての指導的な判例として昭和四二年六月二七日最高裁判決があります。
この判決は「被害者の過失とは、単に被害者本人の過失のみでなく、広く被害者側の過失をも包含する趣旨であると解釈できる」とまず被害者側の過失を認める判断を示し、引きつづき被害者例はどういう人を指すかの点について「この被害者側の過失というのは、たとえば、被害者に対する監督者である父母、ないしはその使用者である家事使用人などのように被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にあるこの過失を指す」と一応の基準を示しました。
被害者側の判断基準を、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなす者と抽象的に判断しましたが、具体的に被害者側の範囲をどのような人まで含ませるかという点は示さなかったので、以後いろいろの問題が残ったわけです。
そこで、判例に表われた中から被害者側に含まれる者をあげてみましょう。
夫婦は含まれます。それが内縁関係にあっても同様です。親子関係。未成年老の事故に対してはその両親は監護監督する義務が課せられているので、その両親は被害者側に含まれます。それ以外の親子の場合でも同一世帯に属しまたは協業関係にあれば反論は生じませんが、別世帯でも、原則的には被害者グ
ループに属すると解してもよいでしょう。兄弟その他の親族の場合は、同一世帯に属する場合は別として、それ以外は否定されるでしょう。雇用関係。企業と被用者のように雇用関係にある場合は、使用者の過失を企業の過失としてとらえるのに反対する説はありません。保母や家事使用人のように非身分的な監修関係にある場合には、家事使用人は含まれるとしていますが、保育園の保母は被害者側に属さないとされています。友人関係や企業の同僚関係にあるというだけでは、被害者側には含まれません。
本問の場合も、親子という身分上の関係に立つわけですから特別の事情、たとえば親子の間で仲が悪く別に生活しており、余り付き合っていなかったのにたまたま車に同乗させたという事情があれば別でしょうが、そうでないかぎり過失相殺が適用されるケースと考えてかまいませんので、相手の言い分を無視してもよいと思います。
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