会社の車を無断で使用中の事故はどうなるか

従業員のAが、同僚のBをだまして、会社の自動車を持ち出しました。そして土曜日の深夜、友人の男女数名とドライブに出て、隣県で事故を起こしました。さいわい、相手の人には怪我はなかったのですが、相手方の自動車は大破しました。被害者は会社に損害賠償の請求をしてきました。Aは損害を賠償するだけの財産も収入もありません。会社がかわって支払わなければならないでしょうか。

 この事件は、人身事故ではありませんから、自動車損害賠償保障法ではなく、民法七一五条により、会社が責任を負うかどうかが、判断されるケースです。会社や事業主が従業員のおこした事故について、損害賠償の義務を負うのは、従業員が「事業ノ執行二付キ」他人に損害をあたえたときです。したがって、会社の従業員が日曜日に仕事とは無関係に他人とケンカをして怪我をさせても、会社の仕事とは関係がありません。
 ただ自動車のばあいは少し複雑です。日曜日に盛り場でケンカをするのは、外観からみても勤務先の事業とはまったく無関係であることは、はっきりしています。ところが、会社、商店などの勤務先で、運転手をしていたり、あるいはセールスマンとして勤務先の自動車を乗り回している者は、これらの運転そのものが「事業ノ執行」なのです。

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これらの者が、社用で車を運転しているときの事故は、もちろん会社や事業主に、民法七一五条一項による損害賠償義務はありますが、これらの者が、私用で自動車を運転しているときはどうでしょう。たとえば、昼休みに、姉さんの病気見舞いに行くつもりで、勤務先の自動車を持ち出して、事故を起こしたばあいは、外観は会社の仕事のために運転していることとまったく変わりがありませんが、目的は私用です。おそらく会社や事業主は、私用に自動車を使うことを禁じているはずです。
 しかし、たとえ私用で車を運転したばあいでも、第三者から見たとき、勤務先のために運転しているのと、まったく変わりがありません。そこで、裁判所は、従業員の行為の外形からみて、会社の仕事に属すると考えられるばあいは「事業ノ執行二付キ」起こった事故であると判断しております。
 自動車の運転は、外からみたら、私用か社用かわかりません。たとえ私用のための運転であっても、従業員が、通常またはときどき会社の自動車を運転して仕事をしていたという事実が退去にあれば、そのときに起きた事故につき会社は賠償の義務があります。
 本問のケースは、土曜日の深夜の事故 であること、場所が会社から遠く離れた県外であること、などからみて、セールスマンが会社の仕事として運転しているぱあいとは、外観から見ても違うことがいえるでしょう。
 この外観という点は、会社の業務によって判断のわかれるところです。あなたの会社が、たんなる商品のセールスだけでなく、深夜でも休日でも、サービスのために自動車を飛ばしてゆく性質の修理業であったとすれば、責任を負わねばならないかもしれません。
 本問のようなケースにつき、会社に責任がないと判断した地方裁判所の判決があります。責任がないばあいとしては、スレスレのケースだと思われます。
 自動車会社のセールスマンが、退社後映画見物をして終列車に乗り遅れたため、無断で会社の自動車を持ち出して家に帰る途中事故を起こしたケースについては、会社に賠償の義務があると判決され、最高裁判所もこれを支持したという判例があります。これからみても、本問のケースが、限界線上にあることがわかると思われます。

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