時間外の無断運転中の事故、雇用関係のない者の事故はどうなるか
自動車運転者である社員○○は、休日に私用のため無断で当社の自動車を持ち出して事故を起こし、老女を即死させました。○○は運転技術も普通でこれまでに大きな事故を起こしたことはありません。被害者は左側を漫然と歩いていたようです。このような事故についても、会社は責任を負わねばならないのでしょうか。
この場合の○○社員は、休日に私用で、しかも会社に無断で、会社の自動車を持ち出し、大それた事故を起こした無責任社員で、まことにけしからんことです。
こんな事故にまで会社に責任を負わされてはたまらない、という経営者としての気持には同情できますが、残念ながら、会社の責任はまぬがれません。被害者の老女にも過失があったようですが、それは過失相殺の問題にこそなれ、本質的なことがらではありません。
企業の発展とともに使用者の責任は広く解釈されるようになり、行為の外形により事業の執行かどうかを判断されるようになりました。そしてこの使用者責任は、自動車の人身事故につき自動車の所有者など運行供用者に、一種の無過失責任を負わせるまでに、発展したのです。
運転の目的はどうであれ、車の所有権が使用者にある場合には、その使用者の運転手が運転しているときの事故なら、すべて使用者は責任を負います。本来の運転者でなくてもその自動車を運転しうる立場にある被用者の無断運転についても使用者に責任が認められてきています。たとえば、運転資格がないタクシー会社の助手兼整備係が練習のため会社の自動車を運転中起こした事故、測量器械のセールスマンが終業後遊びにいくために会社の自動車を持ち出して起こした事故、自動車セールスマンが終業後最終列車に乗りおくれたため私用乗車を禁じられている自動車を運転して帰宅する途中で起こした事故、など、いずれも使用者の責任を認めています。
無断運転であっても、いわゆる泥棒運転などごく限られた例外を除いて、使用者(自動車保有者)に責任があると思わなければなりません。
私は○○産業株式会社の代表者です。息子Kに学業の合間に会社の仕事を手伝わせ、時々会社の自動車の運転もさせています。ところが、夏休みのある日、Kは大学へ書物を借りにいった帰り道、路脇で遊んでいた幼児に車をぶつけてけがをさせ、さらにその家の玄関に突っ込み、その一部こわしました。親として道義的責任は惑じていますが、雇用関係もなにもなくても、会社に法律上の責任はあるのでしょうか。
自己のために自動車が運行の用に供する者(運行供用者)は、人身事故につききびしい責任を負わされています。運行供用者とは、その自動車について、運行支配と運行利益をもっている者のことです。
本問の場合の自動車の所有者は○○産業で、Kはその会社代表者のあなたの息子で、学生ではあるが会社の仕事も手伝い、時々この自動車の運転もしていた人だということです。この自動車の運行支配も運行利益もともに会社にありますから、運行供用者は会社です。この場合たまたまKが私用で運転していたとしても幼児の人身事故につき会社は運行供用者として治療費、慰謝料など支払義務があります。
その家の玄関の破損(物的損害)については、被害者(幼児の両親)は自賠法でなく民法七一五条の使用者責任を根拠に請求してきましょう。この場合、責任を負うためには使用関係と業務の執行中が要件です。使用関係は委任や請負でも、さらには明確な契約がなくても実質的に意思支配関係さえあれば発生します。有償と無償、一時的であると継続的であると問いません。Kは会社の被用者とみられます。ところが自分の目的を遂行するため車を運転し会社のために運転していたとみられないので会社は使用者として物的損害については賠償責任がないでしょう。
人身事故の場合、会社の業務に全然関与してない場合でも裁判所は、運行供用者とは身分関係その他から、抽象的、一般的にその地位にあると認められる者をいうとして、車の保有者に責任を負わせています。
その他判例によりますと、親子間の責任につき、運転者である子が飲酒により吐き気をもよおして車外に出ている間に、同乗の無免許の友人が他事との接触の危険をさけるため事を後退させたときに起こした事故につき、父に運行供用者としての責任を負わせたもの、子のための自動車を保有しいっさいの走行管理費用を出していた父親にその子の起こした事故につき自賠法三条の責任を負わせたものなどがあります。
このように民法上の使用者責任がないときでも、自賠法三条の責任は負う場合があり得るわけですから、自動車を使って事業をしている者は、くれぐれも管理に注意を払う必要があるわけです。
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