休業中に従業員の起こした事故はどうなるか
私は先日従業員を連れて温泉に慰安旅行にいきました。もちろん慰安旅行の間、仕事は休業にしました。ところが従業員のAは、病気だとウソをいって旅行に参加しなかったばかりでなく、自動車修理工場に預けておいた自動車を持ち出してしまいました。そして郊外をドライブして楽しんだ帰り、通行人を怪我させてしまいました。自動車は私の所有で、事業のために使用してきたものです。このような場合、事業主の私が、Aの起こした事故の損害賠償義務を負って、治療費や慰謝料などを、支払わねばならないのでしょうか。
結論から先にいうと、はたして責任を負うか負わないのかの非常に微妙なケースと思われます。同じような例で、事業主に責任なしと結論をくだした高裁の判例があります。
自動車の保有者として、責任を負担させるについて、事故の起こったときの自動車の運転手が、事業主のためのものであるか、私用に待ち出した者のためであるかによって、結論が変わるという考え方をとるとすれば、本問のばあいには、あなたには自動車の保有者としての責任はないことになります。
このような結論を出すためには、事故が起きたとき慰安旅行のため商売が休業中であったこと、自動車が第三者の保管先から持ち出されたこと、従業員が通常自動車運転の業務に従事していた者かどうかなどが考慮に入れられていると思います。
しかし近年の裁判所の考え方はこれと違ってきました。無断運転でも、経営者や、会社に保有者としての責任を認めて、損害賠償を命じているばあいが多くなってきたのです。
それは運転をしている者が無断で、私用のために自動車を持ち出したばあいであっても、事故自動車の運転者が、自動車の所有者または使用者の従業員であったり、ま
た自動車の運転の仕事を日常業務としてやっているなどのばあいには、やはり保有者として責任を負わねばならない、という判断を裁判所はしているのです。
これによると、事故当時における運転者の目的が私用であるということは、経営者が責任を免れようと思っても責任を逃れる理由にはならなくなってるのです。事業主と自動車の運転をしていた者との関係はすべて雇用関係であるとか、運転の外形が事業主の業務を行なっているのと同様であるとか、外見から判断されるようになってき
ました。
このように考えてきますと、あなたの場合も、従業員のAが運転手の仕事をしていて、事故を起こした当該自動車を毎日使用しており、またAがドライブにいって事故を起こした場所も、仕事の都合やとくい失などの関係で、連日のようにいっている所である、などという事情があったとすればあなたか責任を負わねばならないという判決がなされることもあるのです。
そしてあなたがAの起こした事故についても、自動車の保有者として責任があるとすれば、あなたは、Aとあなた自身が無過失であることを証明しなければ、責任を追れることができません。しかし車の無断運転が実際に起きてしまっているのですから、あなたが、無断運転、私用運転を規則で禁止しておいた、という程度の注意では無過失とはいえません。この点、Aとあなたが無過失であることを証明することはほとんど不可能だと考えてください。
それに加えて、運転していたAの無過失ということなどは、とうてい証明不可能です。したがって、Aの運転行為も、外形的には、事業主のあなたのための運転であるとなんら変わりがないという判断がなされれば、絶対に責任を負わされるケースとなる危険があるのです。
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