使用者責任と運行供用者責任の関係
自動車損害賠償保障法ができて以来、交通事故の損害賠償について、経営者の責任は非常に重く厳しくなったということを聞いています。以前は、民法の使用者責任で損害賠償は追求されたということですが、自賠法ができたために使用者責任を問われることはなくなったのでしょうか。
個々の人間の力はかぎられています。社会が進化すればする程、人が他の人を使いまたは使われるというような関係がふえてきます。他人を使用し利益を得る者は、その他人の不法行為についても責任をもたねばなりません。
民法七一五条の使用者責任はこうした背景をもって出現しました。
社会はさらに進みいまや自動車全盛時代に入りました。現代は、文明の利器であると同時に社会の兇器といわれる自動車を支配しながら生きる時代です。自動車の引き起こした事故については、もはや故意とか過失とか、民法七一五条の事業の執行かどうかということを被害者に主張立証させることは酷で、その自動車を運行の用に供する者は、まずその責任を負うべきです。自動車損害賠償保障法(自賠法)三条はこうした時代的要請から生まれました。
自賠法三条は「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定しています。これには但書がついていて免責の規定をしていますが、免責は、これを求める方が立証しなければなりません。これは容易なことではありませんからこの自賠法三条は一種の無過失責任の規定といってよいでしょう。
このように自賠法三条は民法の不法行為の規定が発展したもので、被害者の側ではもはや運行供用者に対して、事故が起こり損害が発生したことだけ主張、立証すればよいのです。したがって、車をもつもの、使うもの、使用者つまり経営者の責任は非常に重くなりました。
この限りではもはや色あせた民法七一五
条の使用者責任の規定はお払箱になったようにも思えますが、実は最古の民法の条文もまだ現役で、張り切らざるを得ません。というのは、自給法三条は人身事故に関する責任だけしか規定していないからです。物的損害については、依然として民法七〇九条の一般原則として同七一五条の使用者責任の規定によらねばなりません。
およそ事故の多くは、人身、物件の双方にわたります。追突されてむち打ち病になり、しかも、自動車も大破された、というように。人身的傷害については、もちろん自賠法三条でいけますが、物的損害の賠償請求となれば民法の一般原則にかえります。したがって加害運転者の使用者に対する民法七一五条による責任の追及がなされるのです。
このように、被害者は人身事故は自賠法で物件事故は民法上の不法行為で、といういわば二本立で請求することになり、物件事故に関する限り経営者は依然として民法の使用者責任により責任をとわれることになります。
なお、人身事故に関するかぎり、ほとんどの場合は、経営者の使用者責任は自賠法三条の運行供用者責任に吸収されるでしょうが、もともと、民法の使用者責任は人の支配にポイントを置いているのに対し、自賠法の運行供用者責任は車、すなわち物の支配に重点を置いていますから、両者は必ずしも重なりあいません。自賠法での責任はないが、民法の使用者責任はある、というケースも稀にはあり得ます。
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