交通事故の賠償金はどのような法律によって定められているか

普通、事故を起こすと、三つの責任が課せられます。一つは行政処分であり、他は刑事上の責任、最後は関心のもっとも寄せられる民事上の責任である損害賠償額の負担です。行政上の責任と、刑事責任は、事故車の運転手個人に課せられる処分ですが、民事上の責任は、被害者との関係において処理されるために、損害賠償の問題が常に世の注目をあびる事がらになるのです。
 自動車の利用によって、利益を受ける者が、交通事故の被害者を十分に救済するのが、自動車の存在を肯定するため に、絶対的な条件であり、また社会の公平な取扱いといえましょう。そこで、被害者に対し賠償額が迅速かつ多額に、しかも確実に補償するために法律の制度があり、法律の運用が行なわれているのです。被害者に有利な賠償額が支払われるための諸制度のうち主な事がらについてみてみましょう。

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昭和三一年に施行された自動車損害賠償保障法(略して自賠法)という特別な法律によって、交通事故の加害者の責任は民法の原則から二つの点で修正されてきています。
 この法律のできる前は、自動車事故の加害者の責任追求の方法は、民法の不法行為の規定によっていたのです。
 この建前は、一つは過失責任主義といわれるものです。被害者が「交通事故でこのような損害を受けた」と主張するだけでは不十分で、加害者に「こんな過失があった、このために事故がおきた」という事実を証拠を挙げて、裁判所に認めてもらわなければならないのです。
 もし、この事実を立証できなければ、一銭の賠償金ももらえない残酷な結果となります。しかし、被害者として相手方の過失を立証することは簡単のようで、実際には、なかなか困難なことです。そこで被害者に、容易に賠償金の補償を、受けさせるべきだとの社会の要請に応えるため、民法の過失責任主義の修正が導入され、挙証責任の転換をこの自賠法のもとに制度化したのです。
 自賠法によれば、自動車を運行することによって利益を得ている者、あるいは自動車を支配しているとみられる者は、人身事故については、重い責任を課せられました。
 自動車の保有者に対し責任を追求する被害者は「交通事故でこのような損害を受けた」ことを立証するだけで賠償金がもらえます。これに対し保有者の方で賠償責任を免れるためには「自分にも、車の運転手にも落度はなかった。被害者または第三者が悪かったのだ。自分の自動車の構造や、機能には悪い個所はなかった」との三点を立証しなければなりませ ん。実際にこの三点を立証することは、ほとんど不可能に近いものですから一種の無過失責任主義の原則をとりいれたものと考えられています。
 この法律によって、先に述べた民法の過失責任主義と比較して判断すれば、被害者にとっては大変有利な、取扱いとなったことが容易に理解できるでしょう。
 もう一つ被害者の救済上の利点は、請求の相手方の問題です。
 運転手という者は、普通は経済負担能力に乏しく、被害者が賠償を完全にとるために狙いうちする相手は、会社の従業員であれば会社に、個人企業であれば使用者に、使用関係になければ車の所有者などでしょう。
 民法の原則によると、企業または雇主に対する責任追求は、運転手と雇主との問で、なんらかの使用関係があり、しかも、交通事故を置き起こしたときに、雇主の業務を執行している状態にあったことを立証しなければ、使用者からの賠償は受けられないことになっています。
 実際の法律の運用ではこの業務の執行中であるとの事実について、現実に雇主の業務を遂行していなくて、運転手の私用の場合でも、外形からみて雇主の業務を行なっていると見られるときは、雇主はこの責任を免れないとするいわゆる外観理論などを導入して、責任の範囲を拡大するよう努力を重ねてきたこですが、それでも十分ではありませんでした。
 しかし、この自賠法によると、被害者としては、企業が車を所有あるいは占有している事実、すなわち運行供用者である事実を立証するだけで必要かつ十分条件を満たすのです。
 使用者と運転手との雇庸関係ならびに業務の執行中というむずかしい事実の立証から被害者は解放されたわけです。

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