会社役員の代理監督者責任
私は、ある商事会社の専務取締役ですが、無免許の社員が無断で社長の車を持ち出し銀行に行く途中、横断歩道を渡っていた小学生をひき重傷を負わせました。ところが、被害者は、会社のほか、社長と私とを被告として損害賠償の請求訴訟を起こしました。私は、雇主は会社でありますから役員個人が責任を負うべきものではないと考えますがどうなのでしょうか。
最近の自動車事故による損害賠償請求事件では、事故を起こした運転手、その運転手を雇っている会社のほか、その会社の役員や監督者である幹部社員などを相手方とする訴訟が多くなりつつあります。
では、この種の訴訟は、何を根拠としたものでしょうか。民法七一五条二項には、同条一項の「或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ、被用者ガ其事業ノ執行二行キ第三者二加ヘタル損害ヲ賠償スル責二任ズ。但使用者ガ被用者ノ選任及ビ其事業ノ監督ニ行平相当ノ注意ヲ為シタルトキスハ相当ノ注意ヲ為スモ損害ガ生ズベカリシトキハ此限二在ラズ」という規定についで「使用者二代ハリテ事業ヲ監督スル者モ亦前項ノ貞二任ズ」と規定されていますので、この規定にもとづいて責任を問うているわけです。すなわち、民法七一五条の責任を負う者は、使用者と「使用者二代ハリテ事業ヲ監督スル者」いわゆる代理監督者とがあり、代理監督者も使用者責任を負わされることになっているからです。
ところで、代理監督者とは、通常、事実上使用者に代わって被用者の選任、監督のどちらか一方または両方をなす者であるといわれています。しかし、いかなる者が代理監督者にあたるかは、実際上は必ずしも容易な問題ではありません。
まず、「代表取締役」については、古い判例では、代表機関は代理監督者としての責任を負うとされましたが、最近の下級審の判決は、その代表者が実質的にあるいは具体的に、使用者に代わって被用者の事業執行を監督しない場合には、単に代表取締役であるというだけでは代理監督者にならないとするのが一般的な考え方のようです。なぜならば、民法七一五条二項は、使用者そのものではなくて使用者に代わって事業を監督する者、たとえば工場長とか事業場の監督者などを対象として定められた規定です。そして、会社が使用者である場合には、その代表取締役は使用者を代表する者であっても、必ずしもそれに代わって監督する者ではありませんから、代表取締役について当惑には民法七一五条二項の適用があるとはいえないからです。したがって、会社が同条一項のいわゆる使用者である場合に、その代表者をして同条二項の責任を負わしめるためには、その代表者が具体的に事業の監督をしている者であることを主張立証することを必要とし、会社の代表者ということだけで当然代理監督者にあたるとすることはできません。
そこで、これらの裁判の場合、証拠により、はたしてその代表取締役が実際に自らその事業の執行を監督していたかどうかを判断し、それにより代理監督者としての賠償責任の有無を決定しております。そして、その代表取締役が、自ら実際に事業の執行を監督しておらず、専務取締役がこれを行なっていたり、単に一般的抽象的な精神的監督にとどまっていたりした場合には、代理監督者としての責任は認められておりません。しかし、他方、代表者に代理監督者の責任が認められた事例も数件あります。
「専務取締役」その他の役員についても、自ら実際に事業の執行を監督していたものと認められるかぎり、代理監督者としての損害賠償責任があることになります。本問は実際にあった事例で、堺市のバス停の横断歩道を渡っていた小学生四名に無免許運転のトラックが突っ込み、少女に重傷を員わせた事件です。原告は、会社、代表取締役のほか、専務取締役に対しても、「代表取締役の代理として会社の全従業員を監督統率する義行があり、単なる事務員であって運転手でなく免許も有しないことを却っていながら、会社の用務を命じ自動車を使用することを黙過した」という理由で訴訟を起こし、被告側は「従業員に対し自動車の使用を固く禁じ、事故発生当日もその社員に対し市電を利用して社用を足すように命じたのに、無断で車を使用したものであるから、監督に欠けるところはない」と主張したが、裁判所から車や鍵の管理のずさんさなどを指摘され、結局監督不行届として、会社、社長とともに連帯責任を負わされ、賠償責任を認められました。
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