交通事故の慰謝料の算定

一般に、慰謝料とは、他人の不法行為によって生ずる精神的な苦痛、すなわち精神的損害に対する損害賠償のことをいいます。
慰謝料額をどのくらいに決めるかということは、実は非常に難しい問題です。もともと慰謝料そのものが精神上蒙った苦痛に対する賠償ですから、その対象は、抽象的無形的な損害であり、それ自体金銭に評価しがたい非財産的損害です。かりに、その苦痛の程度を評価するにしても、その人の感受能力、境遇地位その他により違うでしょうし、治癒された場合における満足の程度も人によってまちまちです。したがって、判例のなかには、わざわざ慰謝料額について、これは「失なわれた生命や遺族の悲しみを評価した額ではなく、最愛の人を失なった悲しみは原告の生涯を通じ遂に治癒されることはあるまいと推測されるその精神的苦痛に対して認めるものである」ことを述べているものもあります。

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そこで、慰謝料額を算定する基準のようなものがあれば実務上便利でしょうが、現在のところ、法律上にも事実上にも準処すべぎ標章はありません。したがって、これを決めるのに困難があるばかりでなく、不均衡になりやすいものです。もちろん、当事者間で話し合ってどのようにも決めてよいわけですが、合意できなければ最終的には裁判官の合理的判断にゆだるほかありません。しかし、裁判官といえども、準拠する基準がない、以上どうしてもその裁判官個人の考えや感情に左右されてしまいます。結局は、多くの判例を集積することによって次第に客観的な基準をつくり上げていくほかないわけです。
現在のところ、裁判所としては、加害者、被害者双方の事情その他諸般の事実を参酌して、いわゆるケース・バイ・ケースで、事件ごとの事情に応じて慰謝料額を決定しています。これは、大審院以来の裁判所のとっている立場で、「権利侵害二対スル慰謝料ノ数額ヲ定ムベキ事情二一定ノ制限アルコトナク、諸般ノ事実ヲ斟酌シテ之ヲ定ムベキモノナレバ、独リ被害者ノ社会的ノ地位ノミナラズ加害者ノ社会上ノ地位ヲ斟酌シタリトテ元ヨリ何等不法ナシ」といっているのがそれです。
では、実際における慰謝料の算定にあたって裁判所が参酌する具体的な事項には、どんをものがあるでしょうか。従来の裁判例によりますと、まず、双方事情として、
(1) 事故時の年齢
(2) 性別および既婚・未婚の別
(3) 健康状態
(4) 経歴・学歴
(5) 職業
(6) 資産・収入および生活程度
(7) 社会的地位
(8) 家庭内の地位ご家族の扶養関係などの身分的・家庭的・社会的関係のほか、
(9) 本件事故の原因
(10) 過失の有無・程度
(11) 傷害の程度、後遺症の有無・状況、入院加療期間、再手術の要否
など事件関係の状況があり、これに関連して、加害者側の事情として、
(12) 看護・弔慰・謝罪こ示談の有無、程度および経過
(13) 事故発生直後にとった措置の情況
(14) 処罰の有無、程度
などが問題となり、被害者側の事情としては、
(15) 余命年数および稼働年数
(16) 事故後における治療上の怠・過失の有無、程度
(17) 加害者から受領した金品の有無、程度
(18) 災害補償金・生命保険金などの受領の有無、程度などが問題となっているようです。
ところで、慰謝料領算定にあたり、過失相殺を適用すべきかどうかの問題については、裁判所のなかには、慰謝料は過失相殺すべきでないとして、財産的損害についてのみ過失相殺を適用した事例がありますが、その場合でも、被害者の過失の程度は慰謝料領算定にあたっての諸般の事情の一つとして斟酌していますから、実質的には大差ないといえましょう。また、被害者自身は幼児であるため過失がないと認められた場合でも、監督義務のある母親に過失のあるときは、父親のした慰謝料請求額に母親の過失を考慮すべきであるとした判決や、逆に慰謝料を請求する原告自身には過失がなくても、直接の被害者に過失があれば、広く被害者側の過失として参酌すべきであるとした判決もあります。

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