車両間衝突の賠償範囲

私は自動車運転中、前方を追っていた自動車に追突し、その車の後部を破損させました。私の一方的過失なので、相手方の修繕費全額を支払うつもりでいましたが、見積書を見ると、板金塗装やライトなどの修理ばかりでなく、エンジン分解費や休業補償など莫大な金額が書き込まれています。私は、これらの費用まで全部支払わなければならないのでしょうか。
車両間の衝突事故における損害賠償の場合も、人身事故の場合と同様、事故と相当因果関係のある損害に限定されます。したがって、事故によって破損した個所の修理費などは当然損害に含まれますが、事故と関係のない個所をついでに修理したからといって、それまで賠償する義務はありません。したがって、エンジン分解費などが事故と何ら関係のないものならば、あなたはその費用まで負担する必要はありません。したがって、見積書に疑問があるならば、その単を修理した業者に問い合わせてはっきりさせ、事故と関係のない部分の修理費を削減するように交渉したらよいと思います。
また、単についての休業補償も、修理期間が相当であり、かつ、車を使えないため休業したことによって現実に被害を受けたというならば、損害として認めざるをえないでしょう。しかし、その場合の損害は、水揚高ではなく純利益ですから、車が動いていた場合0諸経費、例えば、ガソリソ代、オイル代、人件費、それに長期の場合は車の消耗費などを控除したものです。したがって、あなたとしては、相手方の要求してきた損害項目をさらによく調べ、説明を求め、十分相手方と話し合って、合理的に解決するようにされたらよいと思います。

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車両間の衝突事故における過失率の問題ですが、これは具体的ケースによって判断しなければなりませんから、一概にはいえませんが、典型的な事例について、ごく大雑把にいえば、次のとおりです。
横断者事故 交通事故でもっとも数の多いといわれている横問者と車両との衝突事故は、ケースによって千差万別です。しかし、信号機に従い横断歩道を歩行中の通行人をひっかけた場合は、車両に一〇〇%の責任があることはいうまでもありません。信号機の設備がない場合でも、横断歩道上における事故は、通常の場合、車両側にほとんどの責任かおるといえましょう。これに対し、付近に横断歩道があるのに、これによらないで横断した歩行者は約三割の責任があり、特にこの場合註車車両のかげから飛び出したようなときには、少なくとも五割以上歩行者側の責任です。歩行者でもっとも悪質なのは、付近に信号機付きの横断歩道があるのに、その信号が赤であるため故意に横断歩道によらないで、横断歩道から一〇数メートルぐらい離れた地点で、かつ、右折停車中の車両などの後から横断しようとする人たちです。このような歩行者は、赤信号を無視した横断者とともに一〇割ないしこれに近い責任があるといえましょう。
こども事故 こどもの突然の横断または飛び出しは、実務上少なくありません。不可抗力と判断されれば、運転者の過失責任はありませんが、こどもがおうおうにしてこのような動作をすることは予測できることですから、こどもが道路を歩行していたり、付近で遊んでいることを認めたとき、または注意すれば認めることができたとき、これに気づかないで一時停止または徐行を怠れば、その過失は免れられないのが普通です。この場合、運転者は、状況により違いますが、普通七割から五割ぐらいの過失責任があるようです。もっとも、そのこどもに監護者が付き添っている場合には、運転者の責任は五割以下とみるべきでしょう。
追突 信号待ちその他で一時停車していた車両や道路左側に駐車していた車両に追突した場合は、一〇〇%追突した車両の過失と判断されます。しかし、割込みのような車両や走行中合図なく急に右左折した車両、あるいは何らの理由もなく急ブレーキをかけた車両などは、その状況により三割ないし七割ぐらいの過失責任かおるといえましょう。
出合いがしらの衝突 信号機の設置のない、左右の見とおしの悪い交差点で出合いがしらに衝突した場合、双方の道幅に大差がなく、両軍のスピードも同程度のものであれば、その過失は五分五分です。しかし、一方の道路に一時停止の標識があれば、これに違反した車両は少なくとも七割方の責任を負わなければならないと考えます。また、主要幹線である幅の広い道路の交差する狭い道路との出合いがしら事故が起きた場合には、主道に優先権がありますから、狭い道路の車両は、少なくとも七割方の責任を負わされるのが普通です。
すれ違い事故 センターラインのある道路で、特別の事情のないときは、センターラインをこえた車両に全面的な責任がありますが、駐車車両や道路工事などのため止むなくセンターラインをこえた場合は、ケースにより一概にはいえません。通常の場合、こえて間もないときに接触しているときはこえた車両に一〇割ないし七割以上の責任がありますが、こえた車両が再び道路の左側部分に入るためセンターライン側に戻り、車体の半ばがすでに道路の左側部分に入って接触しているようなときは、反対側から直進してきた車両側にも情況により五割ないし七割程度の過失があるとみられることがあります。センターラインのない道路で中心線をこえた場合にも、以上に準じて考えてよいでしょう。
追越し事故 前車を追い越そうとして道路の右側部分を走行し、まだ左側部分に入りきれない場合、すなわち追越しが完了できないうちに、反対側から直進してきた車両と衝突したり、あるいはこれを避けようとして前車と接触した場合、特段の事情がないかぎり追越し車が全面的に責任を負わなければなりません。もっとも、反対側から直進してきた車両も道路の中心線をこえているような場合には、双方の責任となりましょう。
もちろん、複雑なケースも少なくおりませんので、具体的なケースに応じて検討を加え、当事者間で十分話し合って合理的に解決されることを望みます。

加害者の責任/ 事故現場での措置/ 被害者としての現場措置/ 運転者の注意義務/ 損害賠償責任の免除/ 過失の立証責任/ 警察の民事不介入/ 民事責任と刑事責任/ 法律扶助と訴訟扶助/ 共同不法行為の連帯責任/ 未成年者の賠償責任/ 加害者の相続人の賠償責任/ 車の貸主の賠償責任/ 組合の車の事故責任/ 修理中の車の事故の責任/ 所有権留保付割賦払い自動車の事故責任/ 身元保証人の責任/ 事務管理/ 損害賠償の範囲と種類/ 車両間衝突の賠償範囲/ 物損の賠償責任/ 営業上の損害賠償/ 賠償額の不当請求/ 休業補償/ 将来の必要費/ 交通事故の特別損害/ 交通事故の影響による近親者の健康被害/ 得べかりし利益の算出方法/ 交通事故による稼働能力の喪失、低下による逸失利益/ 交通事故の損害賠償での控除項目/ 交通事故の慰謝料の算定/ 交通事故の被害者が慰謝料を請求できる場合/ 近親者の慰謝料請求権/ 交通事故の過失相殺/ 交通事故の過失の割合/ 交通事故での保護者の監護義務と過失相殺/ 交通事故被害者の事後過失/ 第三者の事後過失等の介入/ 社員の私用運転による事故/ 社員の通勤車での事故/ 非社員による会社の車での事故/ 下請会社の事故による親会社の責任/ 名義貸しでの賠償責任/ 使用者の免責事由/ 使用者の従業員に対する補償/ 使用者の従業員に対する求償/ 会社役員の代理監督者責任/

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