営業上の損害賠償

私は、部品製造業を営み、従業員八名を使用して相当な収入をあげ、中流の生活をしていたのですが、自動二輪車を運転中交差点で信号無視のトラックに衝突され重傷を負いました。そのため私の店は休業のやむなきに至り、しかも左足が不具となって営業活動が不能となったため、結局廃業し、その工場を他に賃貸したので、莫大な被害を蒙ったのです。このような損害および慰謝料はどう評価したらよいでしょうか。
この種の事例で設も多く見受けるのは、被害者の傷害、営業車の破損、または自動車の家屋突入などの物件事故のため、休業、廃業、休車などを余儀なくされたことによる営業利益の喪失です。
事故に基づく傷害の治療、入院または後遺症による休業損害を認めた事例は少なくないのですが、その期間、休業期間の純利の算出方法などをどのように認めるかは、問題のあるところです。なかには、事故前と事故後との比較を月別に行ない、事故後の減少額を算出して請求したのが認められている事例があり、裁判所は、その利益の喪失は被告らの予見することができたことだと判示しています。本問の場合は、この裁判例と類似していますから、この判決の内容が役に立つと思われます。
また、加害自動車の家屋突入などによって店舗、商品などが破損され、休業または閉店のやむなきに至ったような場合についても、その間の営業利益の喪失が損害賠償の対象となりますし、なかには営業再開後の売上げ半減の損失についても損害賠償を認めた判決もあります。しかし休業中得意先を失ったことによって営業再開後七ヵ月間二万円得べかりし利益を失ったとしてその損害賠償を請求した場合に、これを認め得べき資料がないとして賠償を認められなかった事例もあります。

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やや特殊のケースとしては、被害者の入院および自宅治療による人手不足を袖うために雇った雇人の給料、被害者の負傷によりやむなく提供した従業員に対する特別労賃などもあり、これらはいずれも認められましたが、子供が事故で負傷した場合、その治療期間中看護のため営業に専念できなかったための減収額については、証拠不十分として認められなかった事例もあります。これらは、立証の難易により結論が変わったものと考えられます。
つぎに、休車損害の賠償請求は、タクシーその他の運送会社等に多いようです。休車損害とは、自動車の事故破損による修理期間中のそれによる営業利益の喪失のことです。通常の場合、一日平均の水揚げ高(運賃収入)から約三、四割の諸経費を差し引いたその残額が、休車による実質的損害額といわれ、したがって、二二日間の休車の場合、一日平均八千円の水揚高があり、諸経費を三割とすれば、結局一二三二〇〇円がその損害となります。なお、必ずしも修理期間中の休車でなくても、休車が加害者側の事由に基づく場合には、加害者はその自動車の運転休止の全期間について失った営業利益の賠償の責任を負わなければなりません。たとえば、事故の直後被害者に誓約書を差し入れ、即時事故率を新車と交換する方法により損害を補填することを約束しながら、加害者が容易にこれを履行せず放置したので、加害者の履行を期待していた被害者が二週間を徒過せしめられた後にはじめて事故事を修理するようになった場合について、休業期間の四週間全部についての損害賠償を認めた例もあります。このように休事による営業利益の喪失は、その減別につき損害賠償を認められるのが普通です。ただ、被害自動車(タクシーではない)が老朽化しており、かつ、被害者側かその修理をしないで、勝手に四〇〇〇円で売却処分をしてしまったような場合は、もはやその車を稼働させるすべがないわけですから、得べかりし利益もないということになり、休業による損害を請求しても認められません。なお、この種の請求について、これを言語するに足る証拠がないとして認められなかった事例もありますから、立証の準備を怠らぬ注意が肝心です。

加害者の責任/ 事故現場での措置/ 被害者としての現場措置/ 運転者の注意義務/ 損害賠償責任の免除/ 過失の立証責任/ 警察の民事不介入/ 民事責任と刑事責任/ 法律扶助と訴訟扶助/ 共同不法行為の連帯責任/ 未成年者の賠償責任/ 加害者の相続人の賠償責任/ 車の貸主の賠償責任/ 組合の車の事故責任/ 修理中の車の事故の責任/ 所有権留保付割賦払い自動車の事故責任/ 身元保証人の責任/ 事務管理/ 損害賠償の範囲と種類/ 車両間衝突の賠償範囲/ 物損の賠償責任/ 営業上の損害賠償/ 賠償額の不当請求/ 休業補償/ 将来の必要費/ 交通事故の特別損害/ 交通事故の影響による近親者の健康被害/ 得べかりし利益の算出方法/ 交通事故による稼働能力の喪失、低下による逸失利益/ 交通事故の損害賠償での控除項目/ 交通事故の慰謝料の算定/ 交通事故の被害者が慰謝料を請求できる場合/ 近親者の慰謝料請求権/ 交通事故の過失相殺/ 交通事故の過失の割合/ 交通事故での保護者の監護義務と過失相殺/ 交通事故被害者の事後過失/ 第三者の事後過失等の介入/ 社員の私用運転による事故/ 社員の通勤車での事故/ 非社員による会社の車での事故/ 下請会社の事故による親会社の責任/ 名義貸しでの賠償責任/ 使用者の免責事由/ 使用者の従業員に対する補償/ 使用者の従業員に対する求償/ 会社役員の代理監督者責任/

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