第三者の事後過失等の介入

私は、自転車に乗って交差点を通過しようとしたところ、トラックにはねられ、右大腿骨骨折の重傷を受け入院しました。ところが、入院中、瑕疵を併発したので右下腿を切断せざるを得なくなり、そのため入院が長びき、かつ、生涯、義足を必要とするようになりました。そこで、これらの損害および慰謝料を加害者に請求したところ、加害者は、瑕疵併発による右足の切断は医者の処置の誤りであるから、その分の費用はそちらに請求してくれといって当方の言い分を認めません。どうしたらよいてしょうか。
これは、いわゆる第三者の過失または偶発的事情介入の問題です。この場合、はたして第三者の過失があったかどうか、あるいは偶発的な事情が認められるかどうか、かりにこれらがあったとしてもその結果と加害者の過失との間に相当因果関係があるとみるべきかどうか、具体的によく調べてみる必要があります。

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本問のように、医師の誤診または処置の誤りから病勢を悪化させたという主張は、実際上少なくありませんが、これが認められた例はほとんど聞きません。これは、医師の過失の基準についての法律問題があるうえに、その証明に非常な困難を伴うためです。特に、治療については、その緊急性と か患者の特異体質とか、いろいろ複雑な事情がからみ合っているので、なかなかその立証はむずかしいのです。
つぎに述べるのは、東京都世田谷の交差点ス自動車と衝突した軽自動二輪車の運転者の例ですが、事故直後警察官立会いのうえでK病院でしたレントゲン診療による医師の診断では、頭部および内臓に何らの異常がなく、単に右肘関節挫創、鼻部切剖、左前腿府関節擦過傷その他の外部的軽症で二週間の安静治療を要するという診断でした。そして、しばらく通院の結果全治したように見え、被害者はその通院の間もラビットを乗り回し、仕事にも従事していた状況でした。ところが二ヵ月後、その被害者は病院で頭部打撲による外傷性硬膜下出血で死亡したので、被告側は、被害者の死亡は事故とは関係がないといって争った事件です。しかし、裁判所は「硬膜下血腫は頭部の打撲を原因として生じ、これに急性と慢性の二種があるが、本件被害者の場合は、たまたま慢性であったため、特殊検査を行なわない限り、事故直後の臨床的診察ではその発見が不可能であり、従って、事故後被害者の治療に当ったK医師も頭部の異常を発見しえなかったこと、しかして、硬膜下血腫の発生原因となった頭部打撲は、本件事故以外に考えられないことが認められ、これに反対の証拠はない」として、結局、被害者の死亡は事故を原因とするものと認め、被告は被害者の死亡についても賠償責任をとらされることになりました。
また、本問は、実際にあった事例ですが、裁判所は「被告等は、瑕疵の併発による右足の切断は、医師がその処置を誤った結果によるもので、事故とは因果関係のないものであるから、治療のために要した費用は、損害額から控除せらるべきである旨の主張を為しているのであるが、証人Sの証言によると、瑕疵は、本件事故によって、右足下部の血管が壊滅し、そのため血行が閉止し、これによってその発生を見るに至ったものであることが認められるので、壊疽の発生と事故の聞には、因果関係の存在することが明らかである」として、被告(加害者)側の主張が排斥されました。
つぎに、事故による外傷から偶然余病が併発して死んだり重傷になったりすることも往々あり、それが加害者の不法行為との間に相当因果関係があるかどうか、よく争われますが、よほどの理由のないかぎり、因果関係ありと判断されています。たとえば、「人馬の通行する道路上で土砂に汚染される外傷を受けたときに破傷風の起こる率は、然らざる場合より高いので、自動車の頭頂事故により受けた絆膏の表皮がとれ、筋肉の露出したものであるときは、その被害者の破傷風に因る死亡と顛覆の過失の間には相当因果関係がある」とされ、また、骨盤骨折の傷害で、いったんは治癒すると思われたのに、尿道狭窄症になり、事故負傷から一年八ヵ月後に死亡した事件で、死因が大腸菌による敗血症状と診断され、一見事故とは無関係に思われるのですが、事故との因果関係を認め、治療費、葬式費、慰謝料などの請求を認めた判決もあります。このほか、治療後の骨折部の金属の腐蝕化膿による費用と事故との間に相当因果関係があるとして、これを認めた事例かおりますが、これはとうぜんと思われます。
このように、事故時の傷害が原因で余病を誘発したような場合は、相当因果関係があるということで、その全損害について賠償しなければなりません。しかし、事故の傷害と余病との間には医学的に何の因果関係もない場合、たとえば、腕に擦過傷を負った被害者が帰宅後心臓麻疹で急死したような場合には、その擦過傷が心臓麻疹を誘発した何らかの理由があればともかく、通常は両者は因果関係がありませんから、加害者は被害者の死亡に対して責任を負うことはありません。

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