物損の賠償責任
家屋、家具、塀、門など他人の物件施設を破損したときは、所有者または管理者と交渉し、通常の場合その損害を全額支払わなければなりません。改修のきくものは、その修理費、破損がはなはだしいときは、新規工事または新品購入など現物賠償などをする必要があります。また、このほか、工事のための取りはずし、取り片付けなどの費用を必要とするときは、これらを含みます。あらかじめ施工の業者に概算書を出させて、当事者双方が納得したところで示談するのがよいでしょう。
タイヤによる飛石のため店舗の窓ガラスや陳列ケースを破損したりそのケース内の商品を不良にしたような場合も、特別の理由がないかぎり、運転者は、その賠償を支払わなければなりません。タイヤで泥をはねて歩行者の衣類を汚損した場合なども同様です。故意または過失がないとぎは、損害賠償の義務は発生しませんが、このような事例で無過失と判定されるようなことは、まずあり得ないでしょう。もっとも、被害者との交渉いかんで損害を折半するようなことも実務上は多いようです。
車を田に飛びこませたり、畑に突っこんで農作物に損傷を与えたような場合は、その作物または荒らされた農作地の坪数の収穫予想量を換価して、現金賠償するのが普通です。例えば、結穂前の稲作地に自動車を突き込ませて約一〇坪分の収穫をダメにしたときは、従来の実績から反当りの収穫量を決定し、その石当り金額から一〇坪分の代金を計算すればよいことになります。
事故当時被害者が着用していた衣類や携帯品などを破損して着用または使用不能とした場合は、その相当額を支払わなければなりません。
裁判例として、着用のレインコートー着および傘一本が破損して、着用、使用が不能となったとして、合計五五〇〇円相当の損害があったものと認めた事例があります。もとより、これらの被害についても、過失相殺の対象となります。
なお、衣類など単に汚損したにすぎない場合には、クリーニング料が損害ということになります。もっとも、その衣類がきわめて高価で、汚染したこと自体その価値を著しく減少せしめたような場合には、その価値の低落した分も損害の対象となりましょう。
積荷が破損または無価値とかった場合にも、その時価が損害として認められることになりましょう。裁判例としては、事故により、代金二四五〇〇円で買い受けた西瓜を約二トン積んだトラックが川に転落して川底に沈んだ事件において、その発見が遅れたため陸揚げする程の価値がなくなった場合に、その西瓜の損害についてその売値ではなく、買値の二四五〇〇円を時価として、これを損害と認めた事例があります。
家畜類、たとえば牛馬、豚、鶏あるいは愛玩物である犬、猫などに死傷を与えたときは、とりあえず、まず獣医の応急診察や手当てを受けさせ、その治療費などを負担し、傷害の程
度により減損した効用分の損害を支払わなければなりません。死んだ場合は、その時価を支払うのが普通です。高価な動物の場合には、血統書などにより専門家の鑑定を求め、その価額を決めればよいでしょう。駄犬や通常の猫など価額の定まらないようなものは、代品で賠償することも多いようです。この際は、動物愛護協会などに相談するのも一方法でしょう。
家畜類や愛玩物の事故の場合は、それを放置した飼主の側にも過失があることが少なくありません。ことに、犬は放し伺いは禁止されていますから、そのための事故なら伺主にもある程度の過失があるといってよいでしょう。
公用物またはこれに準ずるものを破損した場合には、その所有者あるいは管理者と交渉します。たとえば、東京都の場合、歩車道を区別する縁石上の柵などについては区土木課、安全地帯については都交通局などがこれにあたります。もっとも、実際の工事は都や区の下請業者に実施させていることが多いので、加害者が業者に直接依頼して施工させ、それに要した材料費と工賃を払い、原状に復するという現物賠償という形をとる場合もあるようです。また、電柱に衝突して、これを傾斜させたり、屋外電線を切断した場合には、電力会社に復旧工事を依頼し、その復旧費を支払うことになります、その電柱が防犯協会所有の外灯用電柱の場合には、その所有者である防犯協会に連絡し、その材料費、工事費などを支払わなければなりません。このような公用物またはこれに準ずる施設の所有者、管理者が不明である場合には、管轄の警察署に問いあわせれば教えてくれます。
加害者の責任/ 事故現場での措置/ 被害者としての現場措置/ 運転者の注意義務/ 損害賠償責任の免除/ 過失の立証責任/ 警察の民事不介入/ 民事責任と刑事責任/ 法律扶助と訴訟扶助/ 共同不法行為の連帯責任/ 未成年者の賠償責任/ 加害者の相続人の賠償責任/ 車の貸主の賠償責任/ 組合の車の事故責任/ 修理中の車の事故の責任/ 所有権留保付割賦払い自動車の事故責任/ 身元保証人の責任/ 事務管理/ 損害賠償の範囲と種類/ 車両間衝突の賠償範囲/ 物損の賠償責任/ 営業上の損害賠償/ 賠償額の不当請求/ 休業補償/ 将来の必要費/ 交通事故の特別損害/ 交通事故の影響による近親者の健康被害/ 得べかりし利益の算出方法/ 交通事故による稼働能力の喪失、低下による逸失利益/ 交通事故の損害賠償での控除項目/ 交通事故の慰謝料の算定/ 交通事故の被害者が慰謝料を請求できる場合/ 近親者の慰謝料請求権/ 交通事故の過失相殺/ 交通事故の過失の割合/ 交通事故での保護者の監護義務と過失相殺/ 交通事故被害者の事後過失/ 第三者の事後過失等の介入/ 社員の私用運転による事故/ 社員の通勤車での事故/ 非社員による会社の車での事故/ 下請会社の事故による親会社の責任/ 名義貸しでの賠償責任/ 使用者の免責事由/ 使用者の従業員に対する補償/ 使用者の従業員に対する求償/ 会社役員の代理監督者責任/
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