将来の必要費

将来発生すると予測される費用の損害賠償の問題です。たとえば、事故のために支出した整形手術費が損害として請求できることは疑問のないところですが、将来の整形手術費を損害として、手術前である現在の時点で請求することができるかどうかということです。
この将来の費用については、二つの問題点があります。その一つは、将来の手術におけるその必要性と可能性を明確にすることの困難さであり、したがってその費用も不確実であるということです。たとえば、将来の整形手術見込費三〇万円の請求事件において、「外傷は一応治療したので、皮膚の機能の障害除去には、今後相当の時間を待つほかなく、将来整形手術が可能としても、その限度並びに費用を見積ることは、現在において不可能である。よって将来の整形手術費の請求は認められない」と判示されて、原告が敗訴した事例があります。
他の一つは、別途に慰謝料を請求するときに、さらに整形手術費を請求するのは、二重請求となるのではないかという疑問です。事実、顔面に残る負傷の痕跡を除くため、将来整形手術を必要とし、その整形手術費の見積りを請求した事件について「痕跡残存による精神上の慰謝料を請求する以上、さらに整形手術費を別途に請求するのは、二重請求となるゆえ不当である」として賠償を認めなかった事例示あります。しかし理論的には、慰謝料と将来の手術費とは常に相重なるべきものではなく、特に、その慰謝料が将来整形手術をするまでの慰謝料というならば、両者は全く別のものといえるでしょう。

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このような判例からして、原告側の訴訟技術としては、まず、将来の整形手術の必要性とその費用支出の確実性とを医師の診断書などによって十分立証することが必要ですし、また、慰謝料と将来の手術費とが全然別のものであることを立証する必要がでてきます。また、将来の請求を現在請求しなければならない必要性をも強調しなければならないでしょう。この点を不明確なまま請求したため、裁判所から「整形等の手術を受けるか、手術を受けることなく頭髪で隠しておくことにするかについて原告自身も必ずしも決断がついていないことが認められ、現に退院後一年半を経た今日なおその手術を受けておらない場合には、慰謝料算定のための事情として深い考慮を払わなければならないことは別として、いまだ確定していない手術に支出すべき費用を現在直ちに原告の受けた損害とすることは早計である」として、その費用を認められなかった事例もあります。
この整形手術費のほか将来の費用としてよく問題になるものに義足代があります。たとえば、脚の上下腿部などの切断手術を受けた被害者は、生涯そのために義足が必要となるわけですから、その必要義足代を現在一度に請求できることになります。義足代には、年齢に相応する一使用年数(耐用年数)および価格表」がありますから、平均余命によって必要な義足数からその費用金額を求めたうえ、ホフマン式計算法によって民事法定利率の年五分の割合による中間利息を控除すれば、現在における一時払額を算定できます。
なお、この将来の費用については、それが数十年にわたるような場合が少なくないので、物価の変動との関係において問題が生じます。しかし、現在のところ、物価の変動にスライドするような弾力性のある合理的算出方法は考えられていませんで、結局その修正は施されないで算定されています。

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