警察の民事不介入
交通事故の被害者と加害者だけの相対では話がまとまらない場合に、誰か仲に入ってくれるとよいのだがと思うことは、実際にしばしばあることでしょう。特に、警察
官は、中立的立場にあるし、法規に明るく、事件もわかっていることだから、最もてっとり早い最適任者であると考えがちです。
しかし、警察は、本来「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする」ものでありますし、警察の活動は「厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであって、その責務の遂行に当っては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない」と規定されているところです。つまり、警察は、公共の治安を担当するのが任務であって、国民個人の利害問題に介入することは許されないのです。これを通常、警察の「民事不介入の原則」と呼んでいますが、この建前によって、警察は交通事故の示談には関係しないようにしています。
このように、警察は、民事については、ノータッチが本来ですが、ただ当事者に示談の方法を教えたり、和解の方へもっていくような協力をすることはあります。これは、警察が公僕として国民への奉仕精神からやっているものです。もっとも、このサービスが過剰になり、個々のケースに介入して具体的な相談に乗るようになりますと、それが後になって問題を起こすことになります。警察が具体的な内容にまで深入りしますと、必ずといってもよいくらい当事者の一方の側が不満をもち、権力的に解決を強いられたと感じ、あまりよい結果を生まないようです。このことは、警察官にとって厳戒しなければならないところですが、他方、当事者も警察に頼んで事件を解決しようというような安易な気持を抱かないようにする必要があります。
したがって、警察が実際にはからってくれるのは、当事者双方が話し合うのに都合のよいように話し合いの場をもたせて、公平に両者の便宜をはかったり、事故の状況
についての事実を知らせたり、賠償金額について一般の前例などを教えたり、あるいは示談書の書き方などを教えてくれる程度でしょう。相手方に自分の主張を代弁することや、双方の主張をうまく取りまとめてくれるようなことはしてくれません。もしそのような必要のある場合は、裁判所に調停の申立てをすればよいのです。そのほか、強制保険のとり方とか、相手方の車両番号や保険会社名などは、もちろん教えてくれます。要するに、警察は、一般的な相談には応じてくれますが、具体的な民事事件の内容にタッチして当事者に指示したり仲に入ったりすることはしません。示談はあくまで当事者の責任において行なわれることを忘れてはなりません。
私は交通事故を起こし、警察の取調べを受けたとき、警察官から「示談をすれば勘弁してやる」といわれ、被害者と話し合いを始めましたが、被害者は、この警察官のことばを後盾にして、少しかすったぐらいの傷なのに何万円もの損害賠償を請求し、そうしなければ示談はしないというので、弱っております。
この事例は、おそらく警察官が好意的にあなたにいったのでしょうが、被害者がそれを知ったため、かえって悪い結果となった事例です。相手方がどうしてもムリをいうなら、その事情を警察に説明して調書をとってもらうか上申書でも書いて提出すればよいと思います。そうすれば、示談ができないということで、刑事上であなたが不利になることはないでしょう。
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