未成年者の賠償責任
未成年者については、「その行為の責任を弁識するに足るべき知能」をそなえないとき、すなわち、その行為によって他人に違法損害を与えた場合にそれを賠償する責任があるということがわかるだけの能力がそなわっていないときは、損害賠償の責任を負わないものとされています。この責任能力は、人によって、また、行為の種類によって違うわけですが、だいたい一二歳ぐらい、つまり中学生以上になれば責任能力があるとされるのがふつうです。ところで、このような、未成年者の不法行為と親権者の損害賠償義務の関係については、いろいろの問題があります。
未成年者が違法な行為をして第三者に損害を与えた場合に、その未成年者に責任能力がないため損害賠償責任を負わせることができないときは、その親権者または後見人は、その未成年者の監督を怠らなかったことを立証できない以上、自ら損害賠償責任を負わなければならないことになっています。
問題は、未成年者ではあるが責任能力がある場合に、その者のした不法行為について、その親権者や後見人に損害賠償責任を負わせることができるかということです。交通事故の発生率の高い年齢層は一六歳ないし二〇歳ぐらいまでですが、これらの未成年者は、いちおう責任能力をもっていると考えられます。ところが、この年齢層ではほとんど自分の財産で賠償する能力はありませんから、もしその親権者などに賠償義務が生じないとしますと、被害者は、結局この賠償能力のない未成年者を相手方としなければならなくなり、たとえ裁判で勝訴してもその賠償が受けられないことになります。
しかし、責任能力のある未成年者の親権者に対して、民法七一四条の適用を認めることは、その明文上何といっても困難です。しかし、最近の学説の中には、責任能力のある未成年者の不法行為について、民法七一四条ではなく、親権者がその未成年者に対してもっている監督義務を根拠にして、親権者に損害賠償を負わせようとするものがあります。すなわち、親権者は、民法七一四条の反対解釈の結果として全く責任を免れるのではなく、監督上の不注意と損害の発生との間に因果関係があるならば、一般の不法行為の原則に基づいて損害賠償責任を負うべきだというわけです。
もっとも、この学説が、判例によってはっきり認められるまでには至っていませんが、その趣旨を前提とした判決が現われ、おそらく今後このような理論が大勢を占めるようになるのではないかと思われます。したがって、その加害少年に責任能力がないならば、民法七一四条の監督者責任を、また、責任能力がある場合には、少年の親権者等に対して、その監督上の不注意と損害の発生との間に因果関係があることを証明し、民法七〇九条の不法行為責任を追及することができると考えられます。そして、相手方が示談に応じないというならば、やむをえませんから弁護士を依頼して訴訟を提起したらいかがかと思います。
ところで、従来の交通事故の裁判例では、年齢などのうえから未成年者に責任能力があるとして、その賠償責任を認めているのがふつうです。ただ、民法七一四条の監督者の責任を追及する場合には、未成年者に責任能力があるとかえってやりにくいのですが、ひとに雇われている未成年者の業務上の事故について民法七一五条の使用者責任を追及する場合には、その基礎に被用者の賠償責任があることが必要なので、未成年者に責任能力がなければ困ることを、注意しなければなりません。
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