身元保証人の責任
私は、生前親しくしていた知人の遺児が運送会社に勤務するとき、頼まれてその身元保証人になりましたが、最近になってその遺児が自動車事故を起こし通行人を死亡させました。ところが、運送会社から私に、被害者に立て替えた賠償金を支払ってくれと請求してきました。しかし、非常に高額なため困っております。どうしても私か支払わなければならないのでしょうか。
身元保証については、「身元保証ュ関スル法律」というのが、昭和八年一〇月から施行されております。その一条(身元保証契約の存続期間)によりますと、「引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為二因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ、其ノ成立ノ日ヨリ三年間其ノ効カヲ有ス。但シ商工業見習者ノ身元保証契約二付テハ之ヲ五年トス」と規定され、二条一項には、「身元保証契約ノ期間ハ三年ヲ超ュルコトヲ得ズ。若シ之ョリ長キ期間ヲ定メタルトキハ、其ノ期間ハ之ヲ三年二短縮ス」と規定されています。したがって、身元保証契約の存続期間は、期間を五年以下に定めているものについては、その定めてある期間、三年を超える期間を定めているものについては三年間、何ら期間を定めていないものについては三年間(ただし、商工業見習者の身元保証契約については、三年間)ということになります。もっとも、身元保証契約は、これを更新することができますが、この場合にもその期間は、更新の時から五年を超えることはできません。したがって、本問の場合、身元保証をした日がいつであるか、身元保証の契約書を見て、もしその日から三年間(期間が定めてあるときはその期限または最高五年まで)経過しているかどうかを調べてください。もし、その期間が経過しているならば、更新していないかがり、責任は全くありません。更新していても、その時から前と同じ期間が経過していれば同様です。これらの場合には、あなたはいっさい賠償する責任はないことになります。
つぎに、その期間が経過していないときには、あなたは、まず、被用者(あなたが保証した人)が保証後、業務上不適任または不誠実なことをしていなかったかどうか、また、被用者の任務または任地が変更されていないかどうかについて調査してみてください。というのは、使用者は、
被用者に業務上不適任または不誠実な事跡があって、そのため身元保証人の責任を惹起するおそれがあることを知ったとき。被用者の任務または任地を変更し、そのため身元保証人の責任を加重し、またはその監督を困難ならしめたときは、遅滞なく身元保証人に通知する義務があり、身元保証人は、この通知を受けたときは、将来に向かって契約の解除をすることができるからです。したがって、使用者がこの通知義務を怠っていた場合には、その事情によっては今回付託契約を失効させ、または保証責任を会免させる理由となるかも知れません。しかし、実際には、身元保証契約の失効または保証責任の会見は難しいでしょうが、それでも保証責任を軽減する事由とはなります。なお、身元保証人が使用者から前記の通知を受けなくても、その事実のあったことを知ったときは、将来に向かって契約の解除をすることができます。
保証期間が経過していないときは、このように、身元保証契約の失効または保証責任を全免させる事由のないかぎり、あなたは賠償責任を負わなければなりません。しかし、この場合でも、あなたが全額を賠償しなければならないことは少ないと思われます。その理由は、裁判所が身元保証人の損害賠償の責任およびその金額を定めるには、被用者の監督に関する使用者の過失の有無。身元保証人が身元保証をするに至った事由およびこれをするに当たって用いた注意の程度。被用者の任務または身上の変化。その他一切の事情を斟酌しなければならないことになっているからです。交通事故については、適当な裁判例がありませんが、たとえば、証券会社がその社員の不法行為による損害として、その身元保証人であった叔父と義兄に対し七一〇万二五〇〇円の賠償を求めた事件に対し、原告会社が、その社員が外務員見習であるのに「所定の手続をとることかく、法規に違背して外務員と同様の職務に従事させたものであって、この点につき、過失があるのみならず、その間社内の規律は乱脈をきわめ、なんら不正防止のために有効適切な監督手段をとらず、とくに顕客の注文を外務員名義で受けるというそれ自体不正行為を招き易い注文をあえて自ら承認し、その結果生ずることあるべき事故防止のための具体的方策を考慮することなく、漫然放置したものというべきでもって、ひっきょうその損害の大半は原告自ら招いたものといっても過言ではない。この点に被告らが親族間の情誼上拒みがたく、かつ、軽率に本件身元保証に応じ、しかも多年経過の後はじめて本件請求を受けたものであるなどの事実をあわせて考えると、被告らの賠償責任は未だ全然これを免ずるには足らないとしても、相当大幅に減額されてしかるべきである」として一〇万円の賠償責任を認めた事例、があります。また、このほか、使用者が通知義務ならびに監督義務をかったとして、約三〇〇万円の請求に対し、一〇万円の賠償額を認めた事例もあります。
このような事例から推しても、本問の場合も、運送会社側に使用者としての選任監督の過失などが認められることでしょうから、それらの点を証明すれば、その程度に応じて賠償額が軽減されることになります。この例からすれば、もとの賠償順の一〇ないし五%程度の支払で足りることも少なくないと思われます。
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