所有権留保付割賦払い自動車の事故責任
当会社は、自動車の販売店ですが、所有権留保約款を含む割賦払約款付売買契約を締結して、自動車をお客さんに引き渡したところ、その代金の支払未了の間に、そのお客さんがその車で事故を起こし、歩行者に重傷を与えてしまいました。被害者から保有者である当社に損害賠償の請求をしてきましたが、当社に賠償責任があるでしょうか。
所有権留保付の月賦販売契約によって自動車の売買をし、買主がその車で交通事故を起こした場合には、買主は、代金未済のためまだ所有権を取得していなくても、自動車を常時自己の運転に供している以上、運行供用者(自賠法三条)としての責任を免れないことはいうまでもありません。しかし、遂に、本問のように、所有権はもっているが、実質上は売主の手から離れ、買主が全く独自に車を運行しているような場合に、はたして売主も賠償責任を負わされるものでしょうか。
裁判例によりますと、このように、売主に実質上何らの運行支配権がなく、また、経済的利益の帰属がなくて、単に月賦販売金の確保のために所有権を留保しているに過ぎない場合は、運行供用者にあたらず、したがって損害賠償の責任はないと解されています。その理由は、このような「自動車の割賦販売にあっては、売主は契約成立と同時に目的の自動車を買主に引渡し、その使用を認め、ただ売買代金等の債権確保のためにのみ所有権を留保するにすぎないことが認められるから、所有権は割試金の支払のないときにその効力を発揮するにすぎず、運行についての支配権は特段の事情のないかぎり買主にのみ帰属する」と考えられているからです。
自動車の割賦売買に際しては、割賦販売約款というものがあり、このなかには通常「売主は、買主の営業所、車庫または路上で車両の点検をし使用上の注意を与えることができ、買主は、これに従う義務がある」旨の規定があり、このもとで契約されますから、一見売主も自動車の運行を支配するかのようにも思われるかもしれません。しかし、このようた規定は、買主に使用をゆだねている間に、その未熟、粗暴な取扱いなどのため目的自動車の価値を減耗されることを防止し、実質上の担保としての目的物の価値を維持するためにのみ設けられたものと解されるので、たとえこのような条項があったとしても、そのことによって売主に自動車の運行についての支配権が残留することにはなりません。したがって、貴店の場合でも、単に代金債権確保のためのみの理由で所有権を留保しているにすぎない場合ならば、貴店には損害賠償の責任はありません。
なお、この所有権留保付の割賦販売については、自動車の販売業者の場合に限られず、一般の人または会社の間の割賦販売の場合でも同様です。しかし、この場合にも、売主に運行支配権や経済的な利益の帰属がない場合に限られますから、共用したり、運送の便宜を得たりしていますと、運行供用者としての責任を問われますから注意しなければなりません。
つぎに、関連問題として、再度の所有権留保付割賦販売により、自動車の転買入が車体に転売人の名義を表示していたような場合に、転買人が事故を起こしたとき転売人は運行供用者としての責任を負うだろうかという問題があります。一つの実例をあげますと、自動車販売業者Aからトラックを所有権留保の割賦販売によって買い受けた建材株式会社Bが、まだ代金未完済のためAの所有のままになっていたトラックを建材業者Cに所有権留保の割賦販売で売り、C会社はその車を自分の企業に使用していたところ、その割賦代金未済の間にC会社の運転手Dが事故を起こしたというややこしい事件があります。ところが、そのトラックの車体にB会社の名前が大書されていたので、B会社も運行供用者責任および使用者責任があるとして、被害者から損害賠償の請求の訴訟を起こされました。しかし、裁判所は、「加害者の車体に○○建材株式会社と大書され、加害者の登録原簿の記載が被告会社(B)が加害車を使用していた時のままであることは、一見B会社が被告(D)、訴件(C)の使用者であり、B会社が加害車の運行供用者であるかの如くであるが、これらは、いずれもCからB会社に対する割賦代金が完済されないことから存置されたものであり、Cの第三者への転売を防止するための策として首肯しうるものである。のみならず、この一事実をもってB会社が自ら加害車によってなす営業のすべての責任を負担すべき旨を表示したとか、B会社が自ら客観的にDないしCを指揮監督すべき地位に立ったとか、B会社が加害車の運行を支配し、その運行による利益をえているものとは認め難い」と判示して、結局、建材株式会社(B)の運行供用者責任および使用者責任を認めませんでした。
なお、月賦販売には、所有権留保売買のほか、抵当権付売買があります。この抵当権付売買は、自動車抵当法による抵当権設定登録をしたければならず、手続がめんどうなので、現在そう広くは行なわれていませんが、この場合に売主が運行供用者責任を負わないことは、所有権留保売買の場合よりもいっそうはっきりしているといってよいでしょう。
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