共同不法行為の連帯責任

共同不法行為とは、一般に、複数の人の行為が関連し共同して一つの違法行為を構成することをいいます。これを共同不法行為というためには、まず、各人の行為がそれぞれ独立して不法行為の要件を備えていなければなりません。したがって、各人の行為にそれぞれ故意、過失、責任能力、因果関係などがあることが必要で、これに欠ける者があると、その者を除外した残りの者だけの間に共同不法行為が成立します。たとえば、そのうち一人の行為が不可抗力と認められれば、その者を除外した残りの者の間に共同不法行為が成立することとなります。また、共同不法行為が成立するためには、各行為者の間の行為の関連共同性が必要であるとされていますが、行為者に共同して被害を与えるというような共同の認識は必要でなく、その行為がもっぱら客観的に関連共同していればよいとされています。

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私が普通自動車を運転していたところ、進路の前方でA・B両自動車が衝突し、B車がそのはずみで斜めにスリップしてきて私の車にぶつかりました。いわゆる二重衝突になったわけですが、こういう場合、どちらの車にどのように損害賠償を請求したらよいのでしょうか。
この場合、A・B両自動車がどのようにして衝突したかわかりませんので、両者の不法行為の内容がはっきりしませんが、たとえば、B車が信号待ちで一時停車していたところに、前方不注意のA車が追突したため、B車が前方に押し出され、あなたの車に衝突したような場合には、B車は不可抗力と認められますから、A車だけを相手どって損害賠償の請求をすることになります。しかし、A・B両者ともに過失が認められるときは、A・B双方を相手方としてその連帯責任を問うことになります。

自動車の運転中、曲がり角で徐行していたところへ急に男が飛び出してきてぶつかり、はずみで道路の中央に転倒しました。ところが、ちょうど私の後から追従してきたトラックが折悪しくその男をひいたため、被害者は重傷を負いました。私とトラックの運転手とは、共同不法行為の責任を問われ、現在、多額の損害賠償の請求を受けていますが責任の分担はどのようになるものでしょうか。
この場合も、事故の状況が明確でないので、あなたの車が無過失となるのか、トラックが不可抗力となるか明らかではありませんが、あなたとしては、過失が認められるかぎり不法行為の責任があり、トラックの運転手にも過失が認められれば共同不法行為として連帯責任を問われることになります。どちらの側により多くの責任があるかは、もう少し状況がはっきりしなければ何とも申し上げられませんが、あなたに過失が認められるかぎり、事故の原因をつくった者として、あなたの責任の方が大ということになりましょう。
しかし、本件の場合、被害者にもかなり過失があるように思いますから、あなたとしては、第一時的には不可抗力、第二次的には過失相殺を主張することがよろしいでしょう。ただ、実際問題としては、あなたが全然無過失であることを裁判所に認めさせることは困難でしょうから、被害者側にも過失を認めさせて賠償額をへらし、トラック側とも交渉して、その賠償額をトラックとの過失の割合に応じて負担するのが、むしろ得策ではないかと思います。なおこれに似た事件として、青梅街道を荻窪から新宿に向けて走っていた小型乗用車が歩行者を衝突転倒させ、その車の三メートルあとを走ってきた中型車がさらに被害者を引っかけ二〇メートルひきずって大ケガを与えた事件で、損害額一二四万八六五六円のうち被害者の過失を差し引いて四〇万円について、双方の車の会社が達帯して支払えという裁判がなされています。
共同不法行為者は、各自連帯でその賠償の責めを負わなければなりません。この「各自連帯」の意味は、判例では連帯債務の意味と解され、したがって、共同不法行為者の一人について更改、相殺、免除、混同、時効という事由が生じますと、他の賠償義務者全員にも同じ効力が生じます。しかし、学説の多くは、「各自連帯」とは、単に各自が全部についての賠償義務を負うというだけの意味で、たとえば一人について賠償を免除したり、ほっておいて時効にかかったとしても、他の者には影響しないと解しています。しかし、ふつうの場合に、どちらの見解をとっても、一人が請求されれば一人で全額を払わなければならないということは同じことです。
共同不法行為の場合には、多くは連帯で共同賠償を請求されています。たとえば、夜あけ前、交差点中央部でタクシーとトラックが側面衝突し、タクシー・乗客が死亡した事件の場合、タクシー会社とその運転手およびトラック会社とその運転者が連帯して被害者の妻子に損害金と慰謝料を支払うよう命じている判決があります。また不真正連帯責任の場合も同様で、たとえば、使用者が、無免許の者に自動車を運転させ死傷事故を起こした事件で、自動車の所有者、使用者および事故を起こした運転者が連帯で被害者側に損害金および慰謝料の支払を命じている判決があります。しかし、なかには、雇主と雇人に対し別々に賠償を命じている事例もあります。
共同不法行為者の一人が被害者に全部の賠償をした場合には、賠償者は、他の者に対して本来負担すべき責任の割合に応じて求償権をもつことになります。これは、その責任を不真正連帯債務と解しても、同じように考えてよいでしょう。その負担は、原則としては、平等と解されていますが、実際には過失内容などが検討されて、相互の負担が決定されます。

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