交通事故被害者の事後過失

私は交通事故の加害者ですが、被害者が当初膝下切断の診断を受けたのに、その切断手術を拒絶し、いたずらに時間を経過させたので手遅れとなり、ついに大腿部中央から切断せざるを得なくなりました。大腿部の切断は被害者側の責任で、事故とは直接関係はないのですから、私としては膝下切断までの賠償責任を負えば足りると思いますが、どうなのでしょうか。
被害者の事後過失とは、事故発生時の過失ではなく、事故後の過失、たとえば、事故後直ちに適当な手当を受けていれば軽傷で済んだのに、その手当を怠りあるいはこれをしなかったため重傷となったり死亡するに至ったような場合のことで、業務上その結果と加害者の行為との間には相当因果関係の有無について争われることが多いようです。
事後過失と損害との間に相当因果関係があるかないかは、具体的ケースによっていちいち判断しなければなりません。裁判上でも認めた例もあれば、認めなかった例もあります。

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裁判所が事後過失を認めた例としては、「本件事故によって原告(被害者)が受けた傷害なかんずく左上跡骨願上骨折は、通常ならば約五ヵ月程度の入院加療によって治癒するものであるところ、原告はS病院に入院中、医師及び付添看護人の指示や注意に従わず、勝手に包帯やガーゼを外したりしたこと、原告の骨折部分の末端骨折が後方に転位したり、上腰筋炎を併発し更には該部位が化膿して骨片が欠損して現在のような動揺関節になったのも、原告のような療養態度がその大きな原因となっているものと推認できるのであって、認定を左右すべき証拠はない。してみると、原告は、入院中、患者として医師並びに付添看護人の指示や注意を遵守すべき義務を怠った点に過失があり、この過失が原告の損害を発生、拡大させたものといわなければならない」と判示して、過失相殺した例もあります。
しかし、このような被害者の積極的な不注意による病状悪化の場合はともかくとして、通常は、事後過失を認めないことが多いようです。本問は実際にあった事例ですが、その判例でも、「傷害のため、手足を切断しなければならなくなったような場合には、なるべくこれを小部分に止めたいと考えるのは人情の常態であるから、たとえ当初医師から膝下より切断することをすすめられたのに、これを拒絶したため病勢が悪化して、ついに大腿部中央から切断せざるを得なくなったとしても、被害者にその責を問うことはできない」といい、その過失相殺を認めませんでした。
また、交通事故により大腿骨骨折の重傷を負った被害者が、入院治療中再骨折し、そのため入院期間がのび損害が増大したような場合にも、「被害者がT外科病院に入院中再骨折したことは明らかであるが、本件事故による大腿骨骨折という重傷を受けたことがそもそもの原因であり、骨折はT外科でのマッサージ治療中に生じたものであること、再骨折というのは一度折れた骨が同じところで再び折れることで、相当程度治癒してからも何らかの機会に再骨折することは認められるから再骨折につき治癒担当者の過失など通常予想しえない事情が認められない本件においては、再骨折後の治療費と加害者側の本件過失との間には依然相当因果関係ありというべきであるから、その主張は理由がない」と判示した事例があります。しかし、この場合、もし治療担当者の過失ではなく、被害者白身の純然たる過失、たとえば、医師が歩行を禁 止していたのに、あえて歩行したため転んで再骨折したような場合ならば、被害者の事後過失として認められるかも知れません。いずれにしても具体的状況をよく調査する必要がありましょう。
要するに、被害者の事後過失が認められることは、医療行為を無視した被害者の積極的行為でもないかがり、実際上はきわめて少ないといってよいでしょう。

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