使用者の従業員に対する補償

労働者は、業務上負傷したり、疾病にかかったりした場合には、使用者から、いわゆる療養補償、休業補償および障害補償などを受けることができ、また、労働者が業務上死亡した場合には、その遺族や被扶養者などは、遺族補償を受けることができます。これらの補償を通常「災害補償」と総称しています。
「療養補償」とは、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合に、使用者がその費用で行なう療養またはその療養の費用を負担することをいい、その範囲は、労働基準法施行規則に規定されています。
「休業補償」とは、ここに述べた療養のため労働することができないために賃金を受けられない場合に、その療養中使用者が支払う補償のことで、その補償は、平均賃金の六〇%となっています。
「障害補償」とは、労働者が業務上負傷しまたは疾病にかかり、それが治った場合に使用者が、その障害の程度に応じて、平均賃金に身体障害等級に応じて定められた法定の日数を乗じて得た金額を補償することをいいます。もっとも、休業補償および障害補償については、労働者が重大な過失によって業務上負傷しまたは疾病にかかり、かつ、使用者がその過失について行政官庁の認定を受けた場合には、これらを支払わなくてもよいことになっています。

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このようないわゆる使用者が労働者に対して行なう災害補償は、いわゆる損害賠償とはその目的を異にし、また、異質のものでありますから、被害者が労働者で業務上の負傷によるものであるならば、加害者に対し損害賠償の請求をすることもできるし、また、使用者に対して、災害補償の請求をすることもできます。判決でも「労働者が、第三者の不法行為により負傷した場合は、労働者は使用者に対し、労使基準法の定めるところにより、療養および休業補償を請求する権利を有すると共に、第三者に対し不法行為による損害賠償請求権を有するものであり、両請求権は併存するものと解するのが相当である」と 述べています。もちろん、一方で十分な賠償や補償を受けたときには、他方はもはや請求できません。また、補償だけでは十分でないときは、それをこえる金額について加害者に賠償を請求することができます。
ところで、この労働基準法の規定により労働者に災害補償をすでに支払った使用者、または、労災保険によって保険金を支払った政府は、その補償額を加害者に対し請求することができます。何とならば、その補償額は、加害者の不法行為によって使用者をしてこのような補償義務を負わさせ、その支払をなさしめたものですから、それはもとの不法行為に因って生じた損害にほかならず、もとま不法行為に求償してもよいことになるわけです。
使用者は、補償を受けるべき者が、同一の事由について、労働者災害補償保険法によって、労働基準法に規定する災害補償に相当する保険給付を受けることができる場合には、その価額の限度において、補償の責任を免れることができます。また、使用者は、労働基準法による補償を行なった場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責任を免れることができます。労働者災害補償保険法による給付の場合については、法律に明記されていませんが、同様に考えられています。

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