交通事故の過失の割合
被害者の過失をどのように把捉し、また評価して賠償額をどの程度過失相殺したらよいかということは、実際にはなかなか困難な問題です。しかし、過失相殺は公平の
原則からいって、できるだけ事実に即して、妥当に行なわれることが望ましく、この正しい適用は交通の秩序や事故防止にとって重大な影響を与えるものでありますから、これを軽視することは誤りです。
裁判例をみますと、過失相殺そのものが裁判官の自由裁量ですから、そのやり方も軌を一にしていません。被害者の過失の割合を事故発生の原因との対比において求めるもの、加害者側の過失との対比において認めるもの、事件全体との関係をみてその割合を考えるものなど、種々様々ですし、また、被害者の過失を加害者の過失と対比して何分の一程度とはっきり数字をもって示しているものもあれば、数字は示さないが認定額から逆算してみてその過失率を知ることができるものもあります。
この裁判上認定する相殺率は、個々の裁判官の処世説、特に交通事故に対するものの考え方や交通法規の認知程度、交通事情の認識の程度、裁判官自身の運転免許保有の有無や運転経験の程度などによって、大分ちがいがでてくるように思われます。本来からいえば、交通事情に精通し、交通法規に明るく、かつ、運転経験の豊富な人が交通事故の過失の割合を定めるのに適していると思われますが、そうでなくても常識的にある程度までの判断はできるでしょう。ただ、判例に示されている裁判所の両当事者に対する過失およびその割合の認定には、どうかと思われる事例も少なくないように思われます。
もちろん、具体的なケースは千差万別であり、いろいろな事情が積み重なっていますから、あらかじめ、抽象的、概念的にそれぞれの形態をとらえて過失の割合を定めることは適当ではありません。たとえば、「車両間の交差点の出合いがしら事故」という同一の概念に入る事例であっても、その交差する道路の広狭、見とおしの状況、一時停止標識の有無、双方の車のスピードの程度によって、それぞれの運転者の過失率は大きくちがってきます。したがって、そのケースの具体的な状況、内容などを詳しく知らなければ、過失の割合を定めることは不可能です。
私は、交通事故を起こし通行人にケガをさせましたが、相手方も近くに横断歩道があるのに、車のかげから車道を横断したという相当の過失があります。このように被害者側にも相当の過失があったとき、その過失は損害賠償額を決める際どの程度さし引きしてくれるものでしようか。
この事例についても、一般的にいえば被害者側に相当な過失があると考えられますが、この場合にも、横断歩道と被害者の横断した場所との距離がどれくらいか、その場所は交差点であるかどうか、加害車両のスピードは何キロぐらいであったか、当事者はそれぞれ事前に相手方を認識できる状況にあったか、被害者の横断は飛び出しにあたるかどうか、付近に信号機はあったかどうか、また信号機があった場合その信号の表示はどうであったか、そこは交通量の多いところであるかどうかなど多くの事情がはっきりしなければ、被害者の過失率を決めることはできません。そのような事情を十分調査されて、交通問題に明るい弁護士に訪ねてみてもよいでしょう。
加害者の責任/ 事故現場での措置/ 被害者としての現場措置/ 運転者の注意義務/ 損害賠償責任の免除/ 過失の立証責任/ 警察の民事不介入/ 民事責任と刑事責任/ 法律扶助と訴訟扶助/ 共同不法行為の連帯責任/ 未成年者の賠償責任/ 加害者の相続人の賠償責任/ 車の貸主の賠償責任/ 組合の車の事故責任/ 修理中の車の事故の責任/ 所有権留保付割賦払い自動車の事故責任/ 身元保証人の責任/ 事務管理/ 損害賠償の範囲と種類/ 車両間衝突の賠償範囲/ 物損の賠償責任/ 営業上の損害賠償/ 賠償額の不当請求/ 休業補償/ 将来の必要費/ 交通事故の特別損害/ 交通事故の影響による近親者の健康被害/ 得べかりし利益の算出方法/ 交通事故による稼働能力の喪失、低下による逸失利益/ 交通事故の損害賠償での控除項目/ 交通事故の慰謝料の算定/ 交通事故の被害者が慰謝料を請求できる場合/ 近親者の慰謝料請求権/ 交通事故の過失相殺/ 交通事故の過失の割合/ 交通事故での保護者の監護義務と過失相殺/ 交通事故被害者の事後過失/ 第三者の事後過失等の介入/ 社員の私用運転による事故/ 社員の通勤車での事故/ 非社員による会社の車での事故/ 下請会社の事故による親会社の責任/ 名義貸しでの賠償責任/ 使用者の免責事由/ 使用者の従業員に対する補償/ 使用者の従業員に対する求償/ 会社役員の代理監督者責任/
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