近親者の慰謝料請求権

近親者固有の慰謝料については、民法七一一条に「他人ノ生命ヲ害シタル者ハ、被害者ノ父母、配偶者及ヒ子二対シテハ其ノ財産権ヲ害セラレザリシ場合二於テモ損害ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス」と規定されています。そこで、まず問題となるのは、慰謝料が請求できるのは被害者が死亡した場合に限られるのか、また、慰謝料を請求できる者は、被害者の父母、配偶者および子に限られるのかということです。これを法律的にいいますと、この条文の内容で「生命侵害」「被害者ノ父母、配偶者及ヒ子」とそれぞれ規定しているのは、制限的規定であるのか、それとも例示的規定であるのかということです。
まず、被害者が傷害のときでも近親者に慰謝料請求ができるかという、いわゆる被害法益の問題については、昔は否定されていましたが、昭和三三年最高裁が「不法行為により身体を害された者の母は、そのために被害者が生命を害されたときにも比肩すべき精神上の苦痛を受けた場合、自己の権利として慰謝料を請求しうる」という判例を出してから、下級審においても、これを認める判決が多くなっているようです。しかし、他面、外国の多くの立法例、判例が死亡の場合すら近親者の慰謝料の請求権を認めていない状況や、傷害の場合にも認めるときは慰謝料請求権者が無限に広がり権利関係をはなはだしく不明瞭にし、かつ、親と幼児の両者に慰謝料の支払いを命ずれば二重の賠償を許す結果となると判示して、両親の慰謝料請求を認めなかった事例もあります。いずれにしても、傷害事故の場合で近親者9慰謝料請求が認められるには、その傷害が死にも等しい程度の重大な場合に限られているといってよいでしょう。

スポンサーリンク

次に、近親者固有の慰謝料請求権者は、父母、配偶者および子に限定されるかどうかという問題です,戦前においては、この規定の立法趣旨が親・配偶者・子についての権利侵害の立証困難を牧うためにあるので、あまり悲しんでもいない遠縁の者にまで賠償請求権を認めるのは不合理であるから、これを回避するために慰謝料請求者の範囲を最近親に制限したのだと解されていました。したがって、内縁の配偶者や米認 知の子に対しても慰謝料請求権を認めなかったのですが、戦後次第にその意義が広く解釈されるようになりました。現今では、内縁の配偶者や未認知の子の場合はもちろん、兄弟姉妹でもその請求を認める傾向になりました。もっとも、判例のなかには、事実上の親子でも法律上の親子でないかぎり慰謝料の請求権はないといっている判例もあります。このように大勢として近親者の範囲が広く解釈されるようになったのは、具体的妥当性が重視されることになったからですが、その意味でも、具体的なケースを個別的に検討して、その精神的苦痛が社会通年に照らし金銭をもって感謝されるに値する程度のものと認められる場合には、その苦痛を受けた者に慰謝料請求を認めるのが相当であると考えられます。
以上のように、現在では内縁関係であろうが認知しない子であろうが、慰謝料請求権があると解するのが普通です。明らかに母子関係にあり、一般に母が出生届をしたときはそれによって認知の効力が認められます。この場合、たとえ虚偽の出生届がなされているような場合でも、この請求権は法律上の母子関係は認知を必要とすることなく、分娩という自然的、生理的事実によって発生すると判示して、実母が事前に戸籍訂正をしなくても慰謝料を請求することができるとした判決もあります。また、父子関係については、認知によってのみ形成される関係でありますから、未認知の父と子の間には侵害されるべき親族的関係は法律上は存在しないわけです。しかし、判例のなかには、内縁中の出生子がその父母の婚姻届後いまだ認知をしていない実説に養育されている間に交通事故で死亡した場合における事件について、未認知の父親といえども世間の父親と同様の精神的な苦痛を蒙っているのだから、民法七一一条における法律上の父に準ずる地位にあるものとして、その未認知の父親に慰謝料請求権を認めた事例もあります。いずれにしても、慰謝料請求権があるという立場に立って加害側とじっくり交渉してみる必要があります。

加害者の責任/ 事故現場での措置/ 被害者としての現場措置/ 運転者の注意義務/ 損害賠償責任の免除/ 過失の立証責任/ 警察の民事不介入/ 民事責任と刑事責任/ 法律扶助と訴訟扶助/ 共同不法行為の連帯責任/ 未成年者の賠償責任/ 加害者の相続人の賠償責任/ 車の貸主の賠償責任/ 組合の車の事故責任/ 修理中の車の事故の責任/ 所有権留保付割賦払い自動車の事故責任/ 身元保証人の責任/ 事務管理/ 損害賠償の範囲と種類/ 車両間衝突の賠償範囲/ 物損の賠償責任/ 営業上の損害賠償/ 賠償額の不当請求/ 休業補償/ 将来の必要費/ 交通事故の特別損害/ 交通事故の影響による近親者の健康被害/ 得べかりし利益の算出方法/ 交通事故による稼働能力の喪失、低下による逸失利益/ 交通事故の損害賠償での控除項目/ 交通事故の慰謝料の算定/ 交通事故の被害者が慰謝料を請求できる場合/ 近親者の慰謝料請求権/ 交通事故の過失相殺/ 交通事故の過失の割合/ 交通事故での保護者の監護義務と過失相殺/ 交通事故被害者の事後過失/ 第三者の事後過失等の介入/ 社員の私用運転による事故/ 社員の通勤車での事故/ 非社員による会社の車での事故/ 下請会社の事故による親会社の責任/ 名義貸しでの賠償責任/ 使用者の免責事由/ 使用者の従業員に対する補償/ 使用者の従業員に対する求償/ 会社役員の代理監督者責任/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク