交通事故の被害者が慰謝料を請求できる場合

私は、交通事故で重傷を受けた被害者ですが、財産的損害の賠償のほか、慰謝料も請求したいと思っていますが、慰謝料が請求できるのはどんな場合でしょうか。また、もし事故で被害者が即死してしまったようなときは、被害者の慰謝料請求権は遺族に相続されるものなのでしょうか。ある人から、被害者が死ぬとき、「残念、くやしい」といえば慰謝料がとれるが、「肋けてくれ」といったのではとれないという話を聞いたことがありますが本当なのでしょうか。
慰謝料は、大別して、被害者固有の損害賠償請求権としての慰謝料と被害者の近親者固有の損害賠償請求権としての慰謝料とに分けられます。本問は、前者の被害者固有の損害賠償請求権の対象としての慰謝料の問題です。
民法七一〇条は、「他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハズ前条(不法行為)ノ規定ニ依リテ損害賠償ノ責二任ズル者ハ、財産以外ノ損害二対シテモ其ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス」と規定しています。すなわち、被害者は、加害者に対し精神的な苦痛に対する損害賠償として慰謝料を請求できることを意味しています。そして、それは財産的損害の請求とは別個に計算して請求できますし、また、それを同時にすることもできるし、もしその立証が面倒であれば慰謝料だけを請求することもできます。なお、たとえ全然財産的損害がない場合であっても、精神的損害のあるかぎり慰謝料を請求してかまいません。

スポンサーリンク

慰謝料は、前述のように、身体を他人から害されれば請求できることになるわけですが、その損害が金銭に評価できるこうな純経済的な損害であるかぎり、その損害が賠償されれば、被害者として一般に感受する不快感は、これによって拒され、特段の事情がなければ慰謝料請求の原因とはならないものとみられています。そこで、傷害の場合、傷害があったというにとどまらないで、たとえば、顔面損傷などにより将来縁談・就職などが困難となった精神的苦痛とか、一生障害が治らず結婚しても分娩がきづかわれるようになった苦痛とか、失業・廃業または転職を余沢なくされた苦痛とか、後遺症による将来に対する精神的苦痛または受傷後の被害者の事情の変更などによる精神的苦痛を、具体的に立証しているのが普通です。しかし、後遺症がなく、受傷後の事情の変更がなかったとしても、傷害の状況・個所、肉体的苦痛、入院期間などにより被害者が受けた精神的苦痛が認められれば、慰謝料の対象となることは当然です。
この被害者固有の慰謝料でもっとも問題となったのは、被害者が死亡した場合、その相続人が、近親者固有の慰謝料請求とは別個に、その慰謝料請求権を相続により承継取得できるかということです。なぜならば、慰謝料請求権が精神的損害の賠償である以上、それを請求するか否かはもっぱら被害者の決定する一身専属の権利だとされたため、被害者が慰謝料請求の意思を表明しないまま死亡したときは、慰謝料請求権はまだ発生しておらず、したがって相続人は慰謝料請求権を承継して行使できなくなるからです。しかし、判例は、できるかぎり慰謝料請求権の相続を認めようとして、被害者が死亡前に「残念残念」と叫んだときには、加害者に対する慰謝料請求の意思表示をしたものとしています。これが有名な「残念事件」と呼ばれている判決ですが、そのほか「向うが悪い、向うが悪い、止める余裕があったのに止めなかったのだ」とか「くやしい」とか叫んだ場合にも同じように慰謝料請求権の相続を認めました。ところが「前けてくれ」といったのでは加害者に対する意思表示を示したもの ではないとして認めなかった判決もあります。しかし、被害者が死の直前どのようなことを叫ぼうが、それは本来慰謝料請求を考えて表示したものではなく、単なる偶然の事情にすぎませんから、裁判所のこのような考え方はあまりに技巧的ではないかと思われます。そのため学説もこれを攻撃するものが多く、多数説は、慰謝料請求の意思表示がなくても慰謝料請求権は発生し相続されるとし、少数説は、慰謝料請求権の相続を全面的に否定して、死亡による慰謝料は遺族固有の請求権だけを認めれ ばよいとしています。そこで、最近の判例をみると、たとえ被害者が慰謝料請求の意思を表示しなかった場合でも、特別の事情のないかぎり、精神的損害による慰謝料の請求権を認めるものもでてきています。
このような考え方は、被害者が即死や人事不省のまま死亡して慰謝料請求の意思を表明できないようなときに、慰謝料請求権の発生と相続を認めないのは不合理であって、請求の意思の表示は不要であり、むしろ客観的に精神的損害が認められるような場合には、すべて慰謝料の相続を認めるべきだとするわけです。
被害者が幼児や精神病者などで意思能力または感受能力を欠くために、慰謝料請求の意思を表明しえないような場合や、自己が精神的損害をうけたか否かの認識が十分でないような場合にも、慰謝料の請求は認めてよいと考えられています。幼児の事例については、そのうち大人になって感受力ができることが明らかであるから、あらかじめ慰謝料の請求ができるとした判例があり、さらに、胎児の事例につき、将来の感受能力を予期して慰謝料の請求ができるとしている判決があります。

加害者の責任/ 事故現場での措置/ 被害者としての現場措置/ 運転者の注意義務/ 損害賠償責任の免除/ 過失の立証責任/ 警察の民事不介入/ 民事責任と刑事責任/ 法律扶助と訴訟扶助/ 共同不法行為の連帯責任/ 未成年者の賠償責任/ 加害者の相続人の賠償責任/ 車の貸主の賠償責任/ 組合の車の事故責任/ 修理中の車の事故の責任/ 所有権留保付割賦払い自動車の事故責任/ 身元保証人の責任/ 事務管理/ 損害賠償の範囲と種類/ 車両間衝突の賠償範囲/ 物損の賠償責任/ 営業上の損害賠償/ 賠償額の不当請求/ 休業補償/ 将来の必要費/ 交通事故の特別損害/ 交通事故の影響による近親者の健康被害/ 得べかりし利益の算出方法/ 交通事故による稼働能力の喪失、低下による逸失利益/ 交通事故の損害賠償での控除項目/ 交通事故の慰謝料の算定/ 交通事故の被害者が慰謝料を請求できる場合/ 近親者の慰謝料請求権/ 交通事故の過失相殺/ 交通事故の過失の割合/ 交通事故での保護者の監護義務と過失相殺/ 交通事故被害者の事後過失/ 第三者の事後過失等の介入/ 社員の私用運転による事故/ 社員の通勤車での事故/ 非社員による会社の車での事故/ 下請会社の事故による親会社の責任/ 名義貸しでの賠償責任/ 使用者の免責事由/ 使用者の従業員に対する補償/ 使用者の従業員に対する求償/ 会社役員の代理監督者責任/

       copyrght(c).道路と交通の豆知識.all rights reserved

スポンサーリンク