組合の車の事故責任
組合とは、民法によると、各組合員が出資をして、共同の事業を営むことを約することによって成立する団体のことですが、このような民法上の組合は法人ではありません。このほかに、特別法に基づく法人格のある組合があります。
特別法による組合は、たとえば中小企業協同組合法に基づいて主務大臣の認可を得て設立した協同組合とか労働組合などで、一般の会社と同じように独立の法人格をもっていますから、自動車事故のあった場合、組合自体が使用者責任または自賠法三条の運行供用者責任を負うことになります。たとえば、その一例として、農業協同組合の運転手が組合所有の自動車を運行中に事故を起こした事件で、組合に対し運行供用者の責任を認めたものがあります。なお、この事件は、組合の運転手が私用のため無断で組合の車を使用したときの事故であったため、その点から組合が運行供用者にあたるかどうか争われたのですが、裁判所は、自動車の所有者と事故を起こした運転者との間に雇用関係など密接な関係が存在し、かつ日常の自動車の運転および管理状況などからして、客観的外形的に自動車の所有者などのためにする運行と認められるときは、自賠法三条による損害賠償責任は免れないとして、被害者の主張を認めました。
ところが、民法上の組合は、法人ではなく、組合の財産は各組合員の共有であり、債務は組合の財産から支払うほか、組合員個人に請求されたときには、ふつうはその持分に応じた金額を組合員個人の財産から支払わなければなりません。したがって、この民法上のいわゆる任意組合の車の事故については、法律関係がややこしくなります。青森県で実際に起きた事件ですが、この車は同県N町の飲食店組合員四〇人が、各店の乗客の送迎用に月賦で購入し、事故を起こした運転手も組合が雇い入れ、車は組合書記の配車係が指図していました。事故の日は、たまたまその運転手が他のタクシー業者から依頼された客を送っての帰り道で、降雪中の青森市の国道で酌っぱらっていた仕立職に衝突し重傷を負わせた事件です。ところが、その車が組合員個人の名義で登録されていたので、組合長だけが被告として訴えられ、組合長は自分は単に登録名義を貨していただけだと主張して争いました。これに対し、裁判所は、「民法上の組合が保有する自動車が事故を起こしたような場合には、共同不法行為に関する民法七一九条の趣旨を推し及ぼして、保有者の一員である他の組合員とともに、連帯して、被害者に対し自賠法三条による全額の損害賠償責任を負担するものというべきである」と判決し、結局、民法上の組合の事故は、組合員全員の連帯責任で、組合員の一人が請求を受けたときでも、全額を支払わなければならないとしました。そして一人で支払ったとぎには、他の組合員に持分に応じて求償していくことになるわけです。
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