同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合

第三者行為災害によって、第三者が行なうべき損害賠償よりさきに労災保険から保険給付が行なわれますと、本来は、どんな場合にも政府は第三者に対して求償を行な うことになっています。しかし、同じ第三者行為災害といっても、そのうちには、同じ事業場の労働者間の災害や、同じ作業場内で同時に作業を行なう使用者を異にする労働者間の災害なども含まれています。
 いうまでもなく、近代的労働関係の実体は、使用者の指揮命令下において分業と協業を組み合わせた多数労働者の組織的共働関係から成り立っており、業務災害の発生が、同僚労働者の過失によることも異例ではありません。このような場合に、政府が求債権を行使すれば、普通、民法715条1項にもとづいて加害労働者の使用者に対して行なうこととなりますが、使用者もまた、加害労働者に対し求償を行なうこともできますので、最終的には加害労働者にその負担がかかるということにもなります。これでは、労災保険がせっかく労働者の保護を目的としているのに同一事故について一方の労働者に加害行為が あったとはいえ、非常に不利な結果を生れことになります。
 また、使用者からみた場合、労働者相互間の加害行為による業務上災害をも含めて、使用者は、労働基準法により災害補償の責任を負っているものであり、この災害補償に代わるものとして労災保険があり、使用者は保険料を負担しているのです。したがって、同僚加害の場合に労災保険が使用者に求償するとすれば、結果的には、保険料を納めながら、まったく保険給付が受けられないという不合理なことになります。
 このような意味から同僚労働者相互の加害行為による災害については、政府は、保険給付をしても、求質権の行使を差し控えるということになっています。

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では、自分の同僚、上司または部下など、いわゆる同僚加害以外にも、求質権行使を差し控える例があるかという点について説 明します。前にも少し触れましたが、同僚加害と同様、求質権の行使をまったくしないものに「被災労働者と同一作業場内で作業をしている使用者を異にする労働者の加害行為による災害」があります。つまり、建設工事現場や造船所のドックのように、使用者を異にする労働者が混然一体となって作業をしているような場合、各使用者は相互に損害負担の危険にさらされており、その性格、条件などについても、同僚労働者の場合と同様と考えられるからです。
 つぎに、求債権の一部を差し控える場合として「加害者が保険加入者の下請負人である場合」があります。つまり、建設工事などでは、労災保険法8条により、原則として元請負人のみが、労災保険法上事業主とされ、保険加入者となるわけですが、ある災害が、下請負人の故意または重大な過失によって災害が発生した場合には、労災保険法30条の4第3号の「保険加入者が故意又は重大な過失により生じさせた事故」について事業主に対して行なう費用徴収の率との均衡をはかる意味から、求償の額を、費用徴収の率だけとしています。

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