傷害保険が重複した場合の処理
重複保険とは、同一の保険の目的について保険が二つ以上ある場合をいいますが、損害保険で重複保険が問題となるのは、同一の目的について二つ以上の保険契約をし、これらの保険契約の保険金額の和が保険価額をこえる場合で、これを超過保険といいます。
たとえば、50万円の自動車に50万円の自動車保険を二つ付けたような場合を、重複保険で、かつ、超過保険といい、全損になって100万円の保険金を受け取ることは保険によって利得をうることになり、かえって事故の発生を促すようなことにもなるので、公益の立場から、各保険の間でてん補金を分担する問題が生ずるのです。
ところが、傷害保険においては、保険の目的が人の生命、身体であるため、保険価額の算定が技術的に不可能です。したがって、傷害保険においては、厳密な意味では重複保険はありえても超過保険ということはありえません。その意味において、商法632条・633条の重複保険の規定も適用されません。
それでは、重ねて保険契約を結ぶ場合は自由にやってよいかというと、必ずしもそうではありません。保険会社は傷害保険契約を引き受ける際、あるいは契約関係を継続するに際して、当該被保険者にどういう内容の保険がいくら付いているかという点を注意し、この点に重大な関心をもっています。このため、保険約款の上でも重ねて保険契約をする場合には、この旨を必ず保険会社に告げなければならないと規定されています。
すでに会社で普通傷害保険に団体加入していて、今度新たに一家で交通事故傷害保険を付けようとする場合には、古い方の契約、すなわち普通傷害保険契約の方の保険会社へは、新たに交通事故傷害保険を○○社に○○円付ける旨を通知しなければなりません。また、新しく契約する交通事故傷害保険契約の保険会社へは、契約をする際に、すでに○○社に○○円の普通傷害保険を付けていることを告知しなければなりません。保険では前者を通知義務といい、後者を告知義務といっています。
告知義務とは、保険契約を締結するに際し、保険契約者は、保険者に対し重要な事実を告げまたは重要な事実について不
実のことを告げない義務を負っていることをいい、具体的には保険申込書の記載事項欄にありのままを記入しなければならない義務のことをいいます。
通知義務とは、保険契約締結後、危険の変更、増加等に関する一定の事実が発生した場合に、保険会社にそれを通知しなければならないという義務で、傷害保険では、重ねて傷害保険契約を締結するとき、申込書の記載事項に重要な変更を生ずべき事態が発生したとき、著しく危険な行為をするとき等は、保険会社に通知しなければならないと規定しています。通知をする用紙は、保険会社所定の承認裏書請求書を用います。
保険契約締結時に、他に保険のあることを告げなかった場合、すなわち告知義務に違反のあった場合には、保険会社側から契約を解除されることがあります。
保険契約を締結した後、新たに別の保険を付けることを当初の契約の保険会社に通知しなかった場合、すなわち通知義務に違反のある場合には、新しい契約を締結したときから、承認裏書請求書が保険会社へ届くまでの間にこうむった傷害については保険金は支払われません。
有効な複数の保険契約が成立した場合に、双方で担保される事故が発生したら、どのように保険金は算出されるでしょうか。
重複保険の場合の各保険契約の分担方法については、どちらが先に契約したかによって先の契約を優先させ、なお損害が埋らない場合に後の契約を適用する方式、各保険契約の保険金額の割合で損害を分担する方式、互いに他の契約のない場合のてん補額を算出し、そのてん補額の割合で損害額を分担するという独立てん補方式といった方式がありますが、傷害保険では、前述のとおりの事情から、各傷害保険契約は、それぞれ独立して他の契約とは関係なく傷害保険金を支払います。
したがって、被保険者の場合であれば、自動車事故で傷害をこうむったようなときは、双方の保険から契約条件どおりの保険金を受け取ることができます。
ただ、国外旅行傷害保険だけは治療実費が支払われるので、重複保険の問題が生じ各契約の保険金額の割合で、治療実費が分担して支払われ、実費をこえる保険金支払いがないようになっています。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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