相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払
自動車事故の形態は実に多様ですが、これを相互の過失の点からとらえてみると、おおよそ、つぎのように分類されます。
当事者のどちらかの完全に一方的な過失、たとえば、建物・工作物のように静止しているものに衝突した場合、過失のない前車に追突した場合、赤信号を無視して、青信号に従って通行している相手方に衝突した場合、センターラインをオーバーして対向車と衝突し、相手に落度のない場合などです。
これらの場合の相互の過失割合は10対0と判断されるのは当然でしょう。
一方的過失に近いが、相手方にも若干の過失がある場合、たとえば、センターラインを多少オーバーして衝突したが、相手方も不注意でよけられなかった場合のごとく、一方に重大な過失のあるのは事実であるが、他方も避譲処置がとれる可能性があったのにもかかわらず、完全な注意を欠いたために事故が発生したような場合で、過失割合を認定すれば9対1あるいは8対2となります。
お互いに過失はあるが、その程度が多少異なる場合、たとえば、交差点の出合いがしらの衝突で、一方は一時停止、他方は徐行をともに怠った場合、直進車と右折車、あるいは左折車と右折車の衝突で優先順位の車両である直進車と左折車にも前方不注意が認められる場合などで、これらの場合、それぞれの事故によって、事実関係が異なるので一概に断定はできませんが、道路交通法の優先順位、不注意の度合などから、通常は8対2、7対3、あるいは6対4など妥当な割合で認定されます。
双方の過失が同程度の場合、たとえば、双方の不注意で道路中央で正面衝突した場合、通常の出合いがしらの場合、道路交通法上の優先順位の車のほうに不注意の度合が大きく、結果として過失の割合は同程度となる場合などです。
これらの場合、双方の過失割合は5対5と判断されます。
実際の交通事故は、歩行者または相手車両の過失あるいは他のいろいろな要素が錯綜し、双方の過失割合を認定することは容易でありません。
事故の形態から、当事者間の過失の割合は認定されたとしても、それだけでは解決になりません。現実に発生した損害を、どのように負担するかを決定しなければなりませんが、これもなかなか困難な問題です。
原則的な考え方としては、その事故によって生じた総損害を相互の過失割合(責任割合)によって按分して負担する方法が最も衡平の理にかなっていると思われます。
当方が一時停止を見落とし、先方は徐行せずに交差点に入り、出合いがしらに衝突しました。損害は当方3万円、先方は7万円です。責任は7対3ぐらいと思われます。この場合は当方はいくら賠償すべきでしょうか。
この例で説明しますと、
あなたの過失70% 損害3万円
先方の過失 30% 損害7万円
合計10万円
あなたの負担額
3万円×0.7=2万1千円
7万円×0.7=4万9千円
合計7万円
先方の負担額
3万円×0.3=9千円
7万円×0.3=2万1千円
合計3万円
となり、この場合の双方の負担額は、結論的にも妥当といえるでしょう。
また、この場合の決済方法として、自己の負担額と損害額とを比較して、その差額相当額の責任が、自己のみにあるとして、その額を相手方に支払う方法、すなわち、あなたが負担額7万円から自分の損害3万円を差し引いた4万円を相手方に支払って解決する方法と、相手方の損害についての自己の負担額について双方に責任があるとして、その額を互いに賠償し合う方法、すなわち、あなたは相手方の損害の70%である4万9千円を賠償し、相手方はあなたの損害の30%である9千円をあなたに賠償する方法があります。
この二つの決済方法は、双方の負担額そのものにはなんら変わりなく、かりに後者の場合も、互いの債権、債務を相殺してしまうので、結局同じ結果となり、実際の示談においては、ほとんど常識的な決済方法である前者によって決済されています。
自動車保険の損害査定においても、船舶保険と異なり、船舶保険約款第2条によると「衝突が被保険船舶の過失および他船の過失によりて生じたる場合においては、その過失の割合に応じ相殺を行わずして被保険者が他船又は他船の積荷の損害に苛し賠償したる金額」をもって本条項による賠償金としています。特に約款上の規定はありませんが、車両保険、対物賠償保険を完全につけていないと、この二つの決済方法により保険金支払額が異なってくる場合があるので、一応前者の方法を採用しています。したがって、本問の場合、免責額を1万円とすれば、車両保険金として、3万円−1万円=2万円
対物賠償保険金として、4万円、また、免責1万円の場合は4万円−1万円=3万円が支払われます。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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