争訟費用も賠償保険の対象となるか
被保険者は被害者から損害賠償を請求され、その責任の有無あるいはその金額について争いがある場合、裁判や調停などで結着をつけざるをえないことがあります。
裁判や調停などになれば、被保険者としていろいろ費用がかかりますが、保険金として支払われる費用には、訴訟費用、弁護士報酬および仲裁、和解、調停に要した費用があります。
訴訟費用および和解、仲裁に要した費用とは、民事訴訟法の訴訟費用と同義と解釈し、書記料、郵便料、証人や鑑定人の日当、止宿料、旅費など民事訴訟費用法、訴訟費用臨時措置法に定めるところに従って処理され、判決や和解調書、調停調書に被保険者が負担すべき割合がきめられていれば、その割合によって支払われます。
弁護士報酬は、各地の弁護士会の会則によって定められた報酬に関する標準を参考にして、事件解決の難易も加味して妥当な額が支払われます。
調停に要した費用については、証人、鑑定人などに対する旅費、日当、宿泊料などを民事調停規則14条で認める範囲内で支払われます。
約款賠償責任条項5条には、損害賠償に関する争訟費用であること、被保険者が保険会社の書面による同意を得て支出した費用であること、を条件として支払う旨記載されています。
ですから、加害運転者が道路交通法違反、業務上過失傷害罪などの刑法違反について、裁判所で違反の事実を争ったり、刑罰の軽重を争った場合の刑事訴訟費用、弁護士報酬は、損害賠償に関する争訟費用ではないので支払われません。
また、約款一般条項11条1項8号により、保険契約者、被保険者は、損害賠償責任に関する訴訟を提起されたときは、保険会社に通知することが義務づけられており、正当な理由なくその義務が履行されないまま判決があったり和解が行なわれたときは、その賠償金について保険会社は保険金を支払いません。被害者から訴訟が提起されたことを保険会社へ通知し、その訴訟に対して応訴するかどうかについても保険会社へ相談し、応訴を認める旨の書面による同意をえれば、これらの争訟費用が支払われます。
争訟費用を保険金として支払うことについては、保険会社として支払う保険金に影響があるからであって、保険金に無関係な争訟に要する費用までも負担する趣旨ではないからです。保険会社が、明らかに損害額が保険金額を超過すると判断されれば、保険会社としては争う利益はなくなるため訴訟に応じるか否かの選択は被保険者にゆだねられ、この場合には訴訟費用の支払いはありません。
対人賠償保険に加入していますが、保険会社の損害査定は非常にきつく、損害額をカットされると聞きましたがどうなのでしょうか。
子の場合、約款一般条項6条2項により、上記の条件が充たされれば、保険契約者または被保険者が実際に支出した争訟費用全部が支払われます。
もっとも、保険金額より損害賠償金が上回る場合には、保険金額の損害賠償金に対する割合で争訟費用の一部が支払われることになります。
たとえば
保険金額 500万円
損害賠償金 600万円
争訟費用 10万円
とすれば
10万円×500万円/600万円=8万3300円
が500万円の保険金とは別に支払われるわけです。
これは、争訟費用を保険で支払う趣旨からみて、その争訟費用を損害賠償金額のうち保険金で支払われる部分と被保険者が自己負担する部分との按分によって負担するのが公平であると考えられるからです。
また、上記の損害賠償金について、自賠
責保険の支払対象額も含むかどうか約款の文言上必ずしも明らかではありませんが、被保険者に有利に解釈して、自賠責保険の支払対象額を控除した残りの損害賠償金が保険金額を上回るときには、按分計算を行なっています。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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