他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険
被保険者が所有、使用または管理する財物について生じた損害について、その財物に関し正当な権利を有する者に対して負担する賠償責任は免責となります。このような財物に対する賠償責任は、賠償責任保険受託者特別約款等や貨物保険によりてん補される損害ですから、自動車保険では免責とし、そのてん補を他種目の保険に委ね、てん補範囲の競合を避けたのです。
たとえば、運送人の責任、商人の受託責任、借用中の財物に対する返還義務不履行による責任、自己の所有物につき担保権者への賠償背任などがこれにあたり、いずれも免責とされます。
本条項の免責は、被保険者に管理責任がある場合に生ずるものですから、被保険者に管理責任がない手荷物に対する賠償責任は、てん補されます。つまり、被保険者側が引渡しを受けた手荷物については免責となるわけです。引渡しがあった手荷物については、商法591条・577条により旅客運送人(被保険者)に厳格責任が課せられていますが、旅客運送人でない私的な同乗関係についても、引渡しないしは寄託のあった手荷物について賠償責任が課せられますから、これを免責としているのです。
ところで、引渡しがあったか否かについての判断ですが、乗客が身につけている時計・眼鏡・ハンドバッグ等はいまだ引渡しを受けたとはいえませんが、運転者がトランクを開けて、乗客の手荷物をトランク内におさめたとき等は引渡しがあったものとされます。
レッカー車により吊上げけん引されている車両等は、レッカー車側の管理する財物です。ロープでけん引している車両は、被けん引車に運転者が乗っており、被けん引車はけん引車にその管理を100%委ねてはいませんが、けん引を開始する準備を始めた以後は管理下に入ったとみなされます。
記名被保険者の使用人が、記名被保険者の所有、使用または管理する財物を破損した場合には、記名被保険者の負担する賠償責任ないし、債務不履行責任は、本条項によって免責となりますが、使用人の負担する不法行為責任は免責となるか否か問題となります。
使用人を許諾運転者として独立の被保険者とするときは、文理上有責のようにも考えられますが、それでは結局、この免責条項はなきに等しい結果となります。一般に、業務遂行中の使用人は、独立の被保険者ではありませんから、使用者(通常は法人)である記名被保険者の手足であり、使用人の業務執行について他人の財物を破損した責任は、すべて法人たる記名被保険者に帰属しますから、自動車保険の法人契約については、法人と使用人の責任を一体とみて、法人の責任として表象される企業の責任としててん補しています。
したがって、本条項の被保険者とは「被保険者側」と解され、使用人は、被保険者たる法人に包摂されるものとされ、前述のような場合は免責とされるのです。このように解さないと、約款の規定は、法人の契約についてのみてん補範囲が広がり、個人契約との公平に欠けることになります。しかも、この免責の趣旨は他種目保険との競合の回避にありますが、このような場合は、賠債責任保険受託者特別約款によるてん補が受けられるわけですから、このように解釈したからといって、無意味にてん補範囲を制限することにはならないでしょう。また、このように解するほうが使用者から使用人へする求債権の行使は、実態上、国家賠償法の国より公務員への求償権行使と同じように、使用人に故意、重大な過失のあった場合を除き行使しないという慣習が成立していることにも適合することになります。
被保険者の使用人が私的に所有、使用または管理する財物について、他の使用人が業務の執行につき損害を与えたときには、本条項の趣旨からいっても、免責とはならないものと考えられます。業務上保管している財物ではありませんから、被保険者側が管理しているとはいえないからです。
旧約款では、車に積載された財物もしくは人に対する賠償責任が免責となっていましたが、新約款では、人については免責としないでもっぱら財物についてのみ免責としました。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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