どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか
賠償保険金を支払ってもらえない場合としては、つぎのものがあります。
損害賠償責任が発生した原因について免責とする場合、異常危険もしくは危険の著しい増大について免責とする場合、賠償責任が約款の前提とする正常な車両の運行に反して発生した場合、損害賠償責任の態様について免責とする場合、被保険者・契約者の各種義務違反、またはその結果としての契約解除により免責とされる場合、特約条項により免責とされる場合、損害賠償責任額が、自動車損害賠償保障法に基づき支払われる金額を超過しない場合、
つぎの事由によって生じた法律上の損害賠償責任を負担することによって、被保険者のこうむる損害は免責となります。
賠償責任条項では、車両条項と異なって、重過失によって生じた賠償責任も、免責とされません。すなわち、保険契約者・被保険者・保険金を受け取るべき者またはこれらの者の法定代理人の故意によって生じた賠償責任は免責となります。免責となる故意の人的範囲についても、車両条項より狭く、保険の目的を使用しもしくは管理する使用人の故意は、免責とされません。
使用人を許諾運転者として、独立の被保険者であるという考え方からすると、この場合も、被保険者の故意に該当するとして免責ということになりますが、もし使用人の無断使用、業務命令違反使用の場合には、許諾がないわけですから、使用人は被保険者とはいえず、この条項に該当しないことになりますから、使用人の故意によって被保険者(使用者もしくは運行供用者)の負う賠償責任は有責であるということになってしまいます。これでは、許諾のある使用人の故意は免責、無断使用の使用人の故意は結果的に有責という、きわめて不合理なことになります。
むしろ、使用人は許諾運転者という独立の被保険者ではないものと考え、記名被保険者が法人の場合は、法人自体が被保険者であって、使用人の故意によって法人が賠償責任を負う場合には、その使用人が、理事・取締役または法人の業務を執行する他の機関でないかぎり有責と解釈すべきものと思われます。賠償責任が、被保険者の直接支配外に生ずるときは広く保険をてん補することが、被害者保護という社会的な要請をも充足すると考えられるからです。
保険の目的が証券に記載された以外の車種または用途に変更され、または使用されている間に生じた事故の場合に、被保険者が負担する賠償責任は、免責とされます。しかし、車両条項と異なり、保険目的が競争・練習または試験のために使用されている間、航空機または船舶によって輸送されている間に生じた損害賠償責任については、免責条項がありません。もっとも、危険が著しく増大するものと認められるときには、保険会社にあらかじめ通知する義務があります。
賠償責任が約款の前提とする正常な車両の運行に反して発生した場合には、保険契約のてん補の前提が失われて免責となります。
酪酎運転者・無免許運転者などによって運転されている間に生じた事故、車両が安全に運転しうる状態に整備されていないままで使用している間に生じた事故、車両の運行自体が適法行為に用いられておらず、犯罪行為に用いられている間に生じた事故、などについては、その行為が公序良俗に反する反社会的な行為となりますから保険てん補は拒絶されます。
約款賠償責任条項3条によると、賠償責任条項特有の免責条項として、被保険者がつぎの賠償責任を負担することによってこうむる損害を免責としております。ここで被保険者というのは、賠償責任条項1条3項に定める被保険者をいい、記名被保険者に限られているものではありません。
被保険者が所有・使用または管理する財物について生じた損害につき、その財物に関し正当な権利を有する者に対し負担する賠償責任は他の保険種目(賠償責任保険、受託者特別約款など)によって担保される危険でもあり、自動車保険の担保範囲からはずされます。
第三者との間に損害賠償に関して特約のある場合には、その特約によって加重された賠償責任は免責とされます。被保険者が第三者と損害賠償責任の発生要件、損害賠償責任額の決定につき事故発生前に特約を結んでいる場合、その特約が賠償責任の法定要件以上に要件を緩和するとか、法定の立証責任を被保険者の不利に転換するとか、賠償額が法律上定められる額以上のものをあらかじめ定めている等、賠償責任が加重されているときには、加重された部分について免責となります、
つまり、その特約がなかったなら負ったであろう賠償責任額に限られることになります。たとえば、運送契約、雇傭契約、損害賠償額予定特約等に定める違約金の取決め、賠償額の予定、求債権の放棄などがあります。
事故発生後の和解契約、調停等により賠償額をきめた場合は、この免責条項とは関係なく、もっぱら保険会社の承認を得たか否かにより、てん補範囲を定めます。
被保険者の同居の親族に対する賠償責任を免責とした理由は、加害者側となった被保険者と被害者側となった同居の親族とが運命共同体として、互いに損害賠償を請求しないというのが社会通念上一般的であり、保険会社がそのような関係に介入すべきではないということと、被害者、加害者間があまりにも密接な関係のため、保険金を不当に請求する危険があることをおそれて免責とされたものです。このような場合には、傷害保険を付保しておくことが最良の方法です。
被保険者の業務に従事中の使用人に対するその使用人の生命または身体を害したことに起因する賠償責任は、労働者災害補償責任ならびに労働者災害補償保険にその解決を委ねられていますので、自動車保険による担保から除外されたものです。
この趣旨から、労基法の適用のない家事使用人に対する賠償責任については、免責条項から除外されてん補されます。
記名被保険者に対する賠償責任は、記名被保険者が保険契約上、一般的に保険てん補を予定された者でもあり、この者の負う賠償責任が被保険利益とされるのですから、免責としたものです。
運転者限定特約が付されている契約の場合には、限定された運転者以外の者が運転している間に生じた事故によって生じた賠償責任については免責となります。
なお、この賠償責任は限定された証券記載の者に課せられる場合であっても免責となります。
たとえば、第三者への一時貸与により、限定運転者がいまだその車両についての一般的支配権を失っておらない間に事故が発生したため、限定運転者が自賠法3条の運行供用者責任を負う場合であっても、免責となります。
これは、この特約が運転者の資質に注目して、特定者以外の運転危険を免責としたのですからとうぜんといえましょう。かりに、その事故が第三者の運転とは因果関係のない場合でも、特約は運転している間と定めておりますから、因果関係の有無によることなく免責となります。
なお、駐停車の方法が悪く、下事後に車両が暴走した場合も、駐停車させることも運転中であって、原因が運転中にある以上免責となります。つまり、運転中とは、広く、車庫を出てから帰るまでの間で車が使用、管理されている間だとされています。
対人賠償の場合には、保険の目的が自賠法にもとづく強制賠償責任保険契約を締結すべき自動車である場合には、被保険者が負担すべき賠償責任額から自賠責保険によっててん補される保険金を控除して、残余の額について、任意保険から支払われます。
また、任意保険で支払う額というのは、自賠責保険とは独立別個に存在しているのではなく、まず、法律上の損害賠償責任額が過失相殺、損益相殺等の手順をふんで定まり、その額から自賠責保険金を差し引いて残余を支払うのです。つまり、対人賠償保険が上乗せ保険といわれる所以です。自賠責保険がてん補する法律上の賠償責任と任意保険がてん補する法律上の賠償責任とが二重構造になっているのではありません。自賠責保険の保険金の算出方法が、事件の大量処理のため定額化されていることと、法律上の賠償責任額の算出とは関係がないわけです。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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