傷害保険金が支払われない場合
自動車事故等によって傷害をこうむった場合でも、それが免責事由にあたるときには傷害保険金は支払われません。
傷害保険の免責事由は、普通保険約款と交通事故傷害保険約款とで規定の仕方が異なっています。総じて普通保険約款の免責事由のうち、交通事故に関係ないものを整理したのが、交通事故傷害保険約款の免責事由といえるので、ここでは自動車事故に関係の深い交通事故傷害保険の免責事由を中心に説明しましょう。交通事故傷害保険の免責事由は、同約款の第10条および第11条に規定されています。
事故発生原因について免責となる場合
(1) 保険契約者、被保険者の故意・重過失
(2) 保険金受取人の故意・重過失
(3) 闘争、自殺行為、犯罪行為
(4) 地震、噴火、津波
(5) 戦争その他の変乱
(6) 原子力傷害
(7) 創傷伝染病
一定の抽象的危険発生について免責となる場合
(1) 無免許運転
(2) 試運転、訓練、競技、興行の交通乗用具への搭乗危険
(3) 職業的船舶搭乗危険
(4) 職業的航空機搭乗危険
(5) 荷役作業
同約款第10条の免責事由は、普通保険約款にも同趣旨の規定がありますが、第11条の免責事由は、交通事故傷害保険が昭和42年11月1日改訂され独立約款になったとき、交通事故に固有の免責事由として新たに設けられたものです。
以下に、これらの免責事由のうち、自動車事故との関連で注意を要するものを取り上げて説明します。
保険契約者、被保険者、保険金受取人の故意または重大な過失から生じた傷害には、保険金が支払われません。保険契約の前提たる信義誠実の原則に反し、公序良俗にももとるところから免責とされるもので、商法641条の規定を受けて、どの保険約款にも見出される免責規定です。
故意とは、一定の結果を発生させる意図をもって行為することだけでなく、行為の結果を認識しながらあえてこれを行なう未必の故意も、ここにいう故意に含まれると解されています。したがって、わざと走ってくる自動車に向かって飛び出していく当たり屋のような行為はもちろん、ブレーキの効きが甘く、高速で走ると停車しにくいことを知りながら、あえて著しい違反スピードで自動車を走らせ、追突事故を起こして負傷したような場合も免責になります。
重大な過失とは、容易に結果を回避できるにもかかわらず、漫然看過して回避防止しなかったようなほとんど故意に近似する注意欠如の状態をいいますが、結局、重過失かどうかは具体的に事実関係に照らして決めざるをえません。当該事故が信義誠実、公序良俗の観点からみて保
険金を支払うに値するかどうかによって決せられますが、具体的に重過失免責の適用される例は極めて稀なようです。
泥酔状態で車を運転中、傷害をこうむった場合などは、重大なる過失として免責になる例でしょう。
交通事故傷害保険約款では、無免許運転と犯罪行為を免責とし、普通保険約款では違法若しくは反則の行為を免責としています。
普通保険約款の違法、反則行為を厳密に解すれば、極めて広範な免責事由になります。たとえば、一時停止不履行で自動車事故を起こし負傷した場合や信号を確認しないで飛び出し、車にはねられたような場合まで保険金が支払われないことになりますが、これでは傷害保険の効用を損うことになるので、実際上は、合理的、秩序的に制限して解釈されています。
抽象的にいえば、適用される法規の目的、違反の反社会性と傷害保険の社会的機能を比較して決めることになりますが、具体的には、刑罰法規の故意犯、行政法規では無免許運転、泥酔運転等が、これにあたると解されています。
交通事故傷害保険における犯罪行為も、刑罰法規の故意犯と解されているので、結局、普通保険約款と交通事故傷害保険約款とは表現は異なっても、内容はほとんど同じであるといえるでしょう。
無免許運転とは、当該交通乗用具を運転する資格のない者が運転することをいい、免許証を全くもっていない者の運転はもちろん、二輪免許しかもっていない者が普通乗用車を運転する場合も無免許運転になります。
免許証不携帯は、傷害事故発生の危険性になんら影響がないので、無免許運転とは区別されます。
また、無免許運転の車に同乗していて負傷した場合については、直接規定する条項はありませんが、被保険者の故意、重過失という事故招致責任が問題にされる余地があるでしょう。
犯罪行為とは、前述のとおり、刑罰法規の故意犯をいい、たとえば、窃盗行為に自動車を使い、迫われて逃走中自動車事故を起こし負傷したような場合が、これにあたります。このような事故は、保険の対象とするに値しない危険として免責とされているのです。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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