通勤途中の電車での事故
私は、通勤のためバスと電車を利用していますが、冬期などは着ぶくれラッシュで非常に混雑します。もし、出勤、退勤途中で負傷した場合、労災保険の適用が受けられるでしょうか。
労災保険は、労働者の業務上の事故に対して保険給付を行なうことになっていますが、労働者の事故が業務上であるかどうかの判定は、法律には具体的な基準は設けられていません。そこで、実際には行政解釈上、つぎのような考え方により取り扱われています。
被災労働者の事故が業務上であると認め
られるためには、その原因が当該労働者の業務によるものであると認められるものに限られることとされています。この場合、当該労働者の業務をどのように考えるかということが問題となりますが、ここでいう業務というのは、労働者が具体的に仕事をしているということだけではなく、もっと広く事業主の支配下にある状態と考えられています。したがって、一般的には事業場の構内にいるという場合には、この意味で業務遂行性が認められるということになります。通常、事業場構内で事故にあったという場合には、その事故の原因が全く私的なものが原因でないかぎりは業務起因性があるというような考え方をとっています。
このような考え方で通勤、退勤時の事故を考えてみますと、まず、通勤、退勤の業務遂行性が問題となりましょう。つまり通勤、退勤の状態が、事業主の支配下にある状態といえるかどうかということです。
この場合、事業主の支配下にあるとは、なんらかのかたちで事業主の支配が及んでいると考えられる状態、いいかえると事業主が指揮、監督しているか、もしくは指揮、監督しうる状態と考えられています。
ところが、通勤、退勤の労働者の状態は、一般に事業場の始業、終業時間に合わせて、労働者自身が独自の判断にもとづいて独自に行動している状態といえましょう。たとえば、通勤、退勤時に労働者が、その時の都合によって時間、経路を変えるということは全くの自由で、事業主がこれに関与できる性質のものではないでしょう。これに反して、ひとたび労働者が事業場の構内に入るということになれば、事業主は就業時間前であっても、なんらかのかたちでその労働者を指揮、監督できる可能性が生じます。一方、労働者にとっては、事業場構内という意味で事業主の施設管理下に入り、その意味での拘束を受ける状態が生じたと考えられるでしょう。
一般的に、通勤、退勤の状態は、このような考え方をもとにして、現在では業務遂行性がないとされています。したがって、この間に労働者が事故にあったとしても労災保険では業務上の事故とは認められないこととなります。
しかし、通勤、退勤時の事故について、それが業務外とされるのは、一般的な通勤、退勤の状態についての取扱いで、通勤、退勤について、事業主が、専用バスを利用させる等特殊なケースも当然考えなければなりません。このような通勤、退勤について事業の必要性から専用交通機関を利用させているという場合、その交通機関を利用したことが原因となって生じた事故については、業務上と認められます。これは、一般的な通勤、退勤とちがって、専用交通機関を利用しているということは、その間労働者は事業場構内にいると同様に事業主の支配下にある状態、いいかえれば事業主の施設管理下にある状態とみることができるからです。
もっとも、この交通機関が、自転車、モーターバイクの貸与というようなかたちをとった場合には、いわゆる事業主の施設管理下にあり、拘束されている状態とはみることはできないので業務遂行性はないということになるでしょう。
したがって、本問の場合には、バス、電車を利用されるという点から、事業場の専用交通機関を利用しての通勤、退勤という場合ではないように思われますから、かりに冬期の着ぶくれによる事故であったとしても、現在のところ、この事故を労災保険で業務上と認定されることはないと考えられます。
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