医療保険金
被保険者が自動車事故等によって傷害をこうむり、その直接の結果として業務能力の滅失または減少をきたし、かつ、医師の治療を要したときは、平常の業務に従事することを妨げない程度に治癒した日までの治療日数に対し、1日につき保険金額の1000分の1が医療保険金として支払われます。
事故によってケガをした場合に、医療保険金が支払われるためには、そのケガが、業務能力の滅失または減少をきたすものであること、および、医師の治療を要する程度のものであることの二つの要件を充たすことが必要です。
業務能力の滅失、減少とか、平常の業務とかいう場合の業務の意味は、もともとは字義どおり職業、職務上の仕事を意味していましたが、傷害保険が大衆化し、主婦や子供のような無職者にも広く利用されている現在では、日常生活の起居動作も含むものと解されています。したがって、医療保険金は、被保険者が傷害の結果、日常生活に支障がでた場合に、その支障のある期間に対して支払われる保険金ということができます。
医師の治療を要する程度の傷害であることが、医療保険金の支払われる条件になっているので、自分で常備薬を塗って治癒する程度の傷害は、医療保険金の対象になりません。この場合の医師とは、医師法でいうところの医師ですが、ただ保険の実務上は、社会的な需要もあるので、骨折、捻挫、脱臼、打撲にかぎり、柔道整復師(接骨師)も医師と同様に取り扱っています。しかし、はり(鍼)、きゅう(灸)、あんま(按摩)、指圧等は、医師の治療にはあたりません。
医療保険金は、被害の日から180日を限度として、平常の業務に従事することを妨げない程度に治癒した日までの、治療日数に対して支払われます。平常の業務は、必ずしも職業上の業務には限りませんので、休業期間、欠勤期間だけしか医療保険金が支払われないというものではありません。事故によってこうむった傷害が、治癒するまでの、いわゆる全治期間が、一応の基準にはなりますが、治療期間の最終段階では、数日おきにしか通院せず、ほとんど日常生活の支障のない場合もありますし、また、被保険者の都合で、治療が長引き治癒の遅れる場合もありますので、全治期間をそのまま医療保険金日数として認められないこともよくあります。
結局、医療保険金日数は、全治日数を一応の基準にしながら、負傷の部位、程度、実治療日数、入院期間、欠勤期間などを総合的に判断して決めざるをえないといえます。具体的ケースにおいては、よく保険会社と打ち合わせて、納得のいく日数で協定することが必要でしょう。
医療保険金は、治療費の多寡には全く関係なく、保険金額と業務支障日数から算出して、定額的に支払われます。この点が健康保険などと根本的に異なるところです。
たとえば、100万円の普通条件の交通事故傷害保険であれぼ、1日あたりの医療保険金は、1000円ということになり、業務支障期間が30日の場合には、3万円が支払われます。治療費が1万円しかかからなくても、あるいは健康保険が使えたため全く費用がかからなくても、医療保険金を受領することができます。
したがって、医療保険金の経済的機能は、医療費、通院費等、治療に要する費用を担保するのみでなく、傷害の影響を受けた期間の被保険者本人の所得能力の滅失、減少を担保し、また、受傷者をもった家族の有形、無形の損害を担保することにあるといえます。
このような観点からすれば、被保険者本人の収入とか、予想される不時の支出に見合った保険金額で、保険を付けることが合理的といえましょう。
この定額支払いの例外は、外国で自動車事故等に遭った場合に付けておかねばならない国外旅行傷害保険です。この保険だけは、ケガした場合の治療実費が、保険金として支払われます。
事故のため、一時に身体各部に傷害が発生した場合は、その最も程度の重い傷害についての業務支障期間が、医療保険金日数を決める基準になります。第1回目の傷害が治りきらないうちに第2回の傷害が発生した場合には、重複する期間については1度しか医療保険金は支払われません。医療保険金は、傷害そのものというより、傷害に起因する業務に支障ある期間に対して支払われるものですから、重複する期間について、重ねて支払うことはできません。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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