相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任

賠償責任が当方5、相手方が5で、交差点で出合いがしらに衝突し、当方の車が反動で角のタバコ屋に飛び込み、店を壊しました。被害者のタバコ屋は当方に「飛び込んだのはあなたの車だから、店の修理費、商品破損の損害、3日間の休業補償の全額を支払え」といっています。相手の運転手は、よれをよいことに、これらの損害について全く支払おうとしません。どうしたらよいでしょうか。

 このような事故の場合、被害者であるタバコ屋に対しては、いわゆる共同不法行為が成立します。すなわち、最初の衝突については双方5割ずつの過失で生じており、また、その衝突により不可避的にあなたの車がタバコ屋の店に飛び込んだのであれば、飛び込みによる損害についても、相手側は共同不法行為者として、あなたと連帯して被害者に賠償責任を負います。
 共同不法行為の態様と成立要件としては、まず、各人の行為がそれぞれ独立して不法行為の要件をそなえていることが必要です。すなわち、各人に故意、過失と責任能力があり、また、各人の行為と損害の発生との間に因果関係があることが必要とされます。つぎに、行為者間には関連共同が必要であるとされますが、この関連共同には行為者の共謀も、共同の認識も必要ではなく、そ の行為が客観的に関連共同していればよいというのが判例、通説の立場です。
 共同不法行為が成立すると、あなたと相手方は連帯して被害者の被った全損害を賠 償すべき責任を負うことになります。
 連帯して債務を負うことになった場合は民法432条が適用されますから、債務者は、損害に対し各自独立に全額を賠償すべき義務を負担します。
 そして、債権者は1人の債務者だけに損害の全額あるいは一部を請求してもよいし、また一方では他の債務者に全額あるいは一部の請求を行なってもよいことになるのです。もちろん、被害者はそうした請求を行なって、債務者の中のだれかから賠償を受ければ、その限度で他の債務者も債務を免れるので、こうむった損害額以上の賠償をえられるわけではありません。

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共同不法行為の際の責任は、不真正連帯債務であるというのが現在では通説となっています。不真正連帯債務という考え方は、大審院昭和12年6月30日判決において「使用者の民法715条に基づく賠償義務と被用者の賠償義務とは別個の債務で連帯債務ではない」との理由で、一方の時効完成に相対的効力しか認めなかったことから主張されはしめたものといわれます。
 不真正連帯債務が連帯債務と区別される点は、各債務者の債務は主観的に共同の目的を有するものでなく、その間に関連がないことです。したがって、1人の債務者について生じた事由は他の債務者に対して影響を及ぼさないということです。そもそも共同不法行為者に連帯の責任を課したのは、被害者の救済が目的であると考えられますが、民法の連帯債務の規定には債務者の1人について生じた事由が他の者について絶対的効力を生ずるとするものが多く、また、債務の消滅についての絶対的効力の規定がほとんどであるため、連帯債務ではなく、不真正連帯債務として各自が別個に全部の給付義務を負うと解するのが被害者保護の目的にそう妥当な考え方とされています。
 従来は、不真正連帯債務の場合には、弁済した債務者の求償権は発生しないとする学説もありましたが、現在では本来負担すべき責任の割合に応じて求債権を有するというのが判例、学説です。
 もっとも、求債権の根拠については、民法442条〔弁済した債務者の求償権〕の規定の準用によるとする説と、不真正連帯債務者相互の実質的関係から求債権が当然発生するとする説とがあります。いずれにしても交通事故の場合に共同不法行為が成立すれば、その各負担部分は相互の過失の割合により、また過失割合の認定ができない場合は各自平等として決定されるべきものと考えます。
 以上のことがらおわかりのように、あなたの場合は不利な立場に立だされ ています。法律上、被害者はあなたに全損害の賠償を求めることができるし、あなたとしては支払能力があればまず被害者に賠償してから、あなたと相手方の間の関係において相手方の負担部分を求償しなければならないからです。
 しかし、これはあくまで法律上の最終結論で、通常は三者でひざを交えてよく話合いを行ない、相手方の運転手にも5割の過失があること、したがって、たまたまタバコ屋に飛び込んだのがあなたの車であっても、それは最初の衝突事故のたんなる結果であって、相手方の運転手も損害の半分を賠償する義務があることなどをよく説明すれば了解してもらえるはずです。
 しかし、相手の運転手に賠償する資力がない場合は、やむをえずあなたが一度被害者に全額賠償し、あとで相手方に請求の訴えを起こし、分割払等の方法で回収するくらいしか方法はありません。
 また、あなたが対物賠償保険をかけていた場合は、あなたが最終的に負担した妥当な賠倍額は保険金で支払われ、保険会社はあなたが相手方の運転手に対して有している求償権を代位して相手方に請求することになります。

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