事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置
車両事故の場合、警察への届出と保険会社への事故連絡をするとともに、事故車を現場の最寄りの修理工場に修理を依頼します。修理工場では、事故車が搬入されたら、契約内容を確認し、被保険者が保険会社へ事故通知をしていない場合は自ら行なうか、あるいは被保険者に連絡をとるようにすすめます。そして、損害を後日でも確認できるように、登録番号を入れた、損傷箇所を示す写真を必要枚数だけとり、修理見積額を算出して保険会社の指示をまちます。
修繕を行なう場合は、あらかじめ適当な修繕者の詳細な見積書を提出して、保険会社の承認をえなければなりません。正当な理由なくこの義務に違反すると、保険会社では保険金の支払いを免れることができます。
また仮に、保険会社で修繕に着手後に追認したとしても妥当な修理方法をこえる修繕費については担保されません。
事故車が谷底に転落しているような場合は、直ちに引揚作業を業者に依頼しなければなりません。漫然と放置し、河川の増水により流失したり、修理不能の状態になったときは、損害防止、軽減義務を怠ったことになり、場合によっては保険金をまったく支払ってもらえないことにもなりかねません。
転落事故の場合は、物理的、経済的に修繕が不能という例も多く、そのような場合の引揚作業は経済的に無益です。引揚作業を必要とするような事故は、保険会社との密接な打合せが特に必要です。
事故により自力走行が不能になった場合は、最寄りの修理工場に連絡してレッカー車の出勤を依頼するか、あるいは作業員の来援を求め現場で自力走行可能な程度にまで応急修理をするか、いずれかの措置をとります。けん引費については、あくまで最寄りの修理工場までが原則であり、応急修理の場合も自力走行可能な程度に復旧するに要する必要最小限の費用が保険上のてん補範囲となることは前述のとおりです。
他人から損害の賠償を受けることができる場合には、その権利の保全または行使について必要な手続をとることが必要です。加害者に誠意や支払能力のないときには、車両保険金を請求することができますが、この場合、保険会社は損害をてん補した額を限度として、被保険者の他人に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、加害者に求償することになります。したがって、この求償権の放棄または求償権保全についてなんら有効な処置をとらなかった場合には、取得すべき権利の行使によって受けたと認められる金額を控除して保険金は支払われることになります。
また、第三者の加害行為の事実やその他求償に必要な事項を後日立証できるように警察署への届出が必要です。なお、加害者の支払能力に不安がある場合は、保険会社に立合いを求め、損害の確認をしてもらっておいた方がよいでしょう。
自動車およびその付属品が盗難にあったときは、直ちに警察署へ届け出て捜査を依頼しなければなりません。そして、保険会社にも通知し、盗難前後の状況を詳細に伝え、盗難事の発見をまちます。保険会社と打合せのうえ、必要性が認められれば新聞広告をするのもよいでしょう。
賠償事故を起こした場合、交渉にあたって重要なことはもちろん誠意ですが、被害者側から法外な要求がなされた場合は、保険会社と打合せのうえきっぱり拒否することも必要です。加害者だからといって、すべて被害者側の要求を聞かねばならぬ理由はありません。あいまいな態度はもっとも禁物です。
保険会社の事前の承認をえないで損害賠償責任の全部ないし一部を認めてはなりません。示談だけではなく、民事調停法にもとづく調停、裁判上の和解であっても同じです。物件事故に比し金額も高額になるため特に注意が必要です。正当な理由なくこれに違反した場合は、保険会社が損害賠償責任なしと認めた部分は控除されて、てん補額が決定されます。もっとも、これに不服な者は、保険会社を相手方として訴訟を提起することができます。
対物賠償事故の場合、自車損害と同様に、直ちに修理工場に搬入し、損傷個所の写真をとり、車検証によって正当な所有者を確認し、修理見積額を保険会社に連絡するとともにその指示を求めます。
被害物が家屋、塀などのとき修理請負業者に修理費見積を出してもらい、写真をとって保険会社に連絡し、その指示をまちます。
被害物が商品などのとき、損害額の把握が困難であり、損害額明細書を被書物所有者から提出してもらい、写真をとって保険会社へ連絡し、その指示をまちます。
電柱、ガードレールのとき、電力会社やNTTの電柱、道路公団または各自治体所有のガードレール等の復旧費はおおむね妥当な修理がなされるため、心配はあまりいりませんが、見積書と写真はもちろんとっておき、保険会社に連絡して指示をまちます。
休業補償、代車費用を請求された、場合、必ず保険会社に連絡し、その承認をえてからでなければ請求に応じてはなりません。格落ち損害の請求についても同様です。店舗や工場への飛込み事故による休業損害も必ず保険会社の承認が必要です。
対人賠償事故を起こした場合、被害者を直ちに救護し、誠意をもって被害者およびその遺族に接しなければなりません。
また、人身事故は被害者にも過失のある場合が多いので、事故の現隠者の確保にもつとめるべきです。
人身事故は、金銭的にすべて割り切れる性格のものではないため、たとえ遠隔地であってもお見舞をしたり、治療費を直ちに支払ったり、死亡事故の場合は相応の香典や花輪を供えたり葬儀費の一部を立て替えておくといった配慮が必要です。もちろん賠償した金員の領収証は、取り付けなければなりません。お見舞の金品や香典は、通常は、賠償とみなされませんから保険金の支払対象にはなりませんが、社会一般の通常の水準をこえた金品は賠償金とみなしうる場合もあり、これを支出する場合は保険会社と十分な打合せが必要です。
示談交渉がはじまったら話合いの日時、場所、当事者、話合いの内容等を必ずメモしておくことが必要です。そして、経過を保険会社に連絡し、その後の方針につき指示を求めます。要求額が被害者側より提示されたら即刻保険会社へ連絡し、示談額の枠をきめてもらうと交渉がやりやすいでしょう。
事故発生につき、被害者側にも過失があったり、あるいは被保険者以外にも事故発生につき責任がある者がいる場合は、保険会社と打ち合わせ、自分の賠償責任の範囲はどこまでか十分検討してから相手方と自分の損害賠償額を協定する必要があります。保険がついているからと安易に考えてはいけません。
損害賠償責任に関し訴訟を提起されたら、直ちに保険会社に連絡しなければなりません。正当な理由なくしてこれに違反すると,保険金は一切支払われません。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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