第三者行為災害の意義
労働者災害補償保険法20条にいう「第三者」とは、保険者(政府)、保険加入者(事業主)および受給権者(被災労働者)以外の者をいいます。第三者の範囲に事業主を含めることは、20条の文理解釈上は可能ですが、労災保険が、事業主の責めに帰すべき場合をも含めて、労働者の負傷、疾病を保険しようとするものである以上、第三者のなかに事業主が含まれないことは当然のことというべきでしょう。
したがって、第三者というのは、保険関係当事者以外の者ということになり、労災保険とまったく関係のない者はもちろんのこと、労災保険に加入している他の事業主およびその労働者、被災労働者の同僚労働者もここにいう第三者です。また、被災労働者の雇用主であっても、それが労災保険法上の保険加入者と認められない場合も第三者として取り扱われることになります。
労災保険は、労働者の業務上の災害について迅速、公正な補償を行なうことを目的としています。
しかし、労働者の業務上の災害といってもその形態は千差万別で、工場内で工作機械を操作中に手指を切断したというような典型的な災害ばかりではありません。業務上災害は、つぎの二つに大別できます。
その一つは、工場で就業しているときの災害や出張中の災害などで、他人の行為が原因とならないものや、労働者の使用されている工場等の施設によって発生した災害などであり、もう一つは,出張中の交通事故のように、他人の行為の介在する災害や、外勤の際に他の事業場の施設による災害のように他人の支配、管理する工作物界が原因でこうむる災害などです。
労災保険の第三者行為災害とはもちろん後者の災害を指すもので、特に前者と区別しているのは、後者には、他人の加害行為が介在して、法律関係が複雑になり、種々の調整が必要となってくるからです。
第三者行為災害とは、第三者が、業務上災害をこうむった労働者またはその遺族に対し損害賠償義務を負うすべての場合をいいます。これは、労災保険法20条で「政府は保険給付の価額の限度で受給権者の第三者に対する損害賠償請求権を取得し、受給権者が第三者から損害賠償を受けた価額の限度で保険給付の義務を免れる」旨定めているところからも明らかでしょう。
したがって、人の加害行為によって発生した災害に限らず、物の瑕疵や動物の加害によって生じた災害であっても、第三者がこれについて損害賠償義務を負う場合は、すべて第三者行為災害であり、また、第三者の加害行為と被災労働者またはその事業主の故意または重大な過失による行為とが相まって発生した災害であっても、第三者が損害賠償義務を負う以上は第三者行為災害となります。
労働者が、使用者の指揮命令を受けて業務に従事しているとき、第三者の行為や第三者所有の建造物の瑕疵などが原因で傷病をこうむった場合に、その労働者は、使用者に対する災害補償請求権または政府に対する労災保険給付請求権を取得するとともに、加害者に対する損害賠償請求権を取得します。そして、災害が自動
車事故である場合には、保険会社等に対する損害賠償請求権も取得します。
これを簡単に整理しますと、つぎのような請求権を取得することになります。
使用者に対する災害補償請求権、政府に対する労災保険給付請求権、第三者およびその事業主に対する損害賠償請求権、当該災害が自動車事故である場合は保険会社等に対する損害賠償請求権
第三者行為災害では、このように同時に多数の請求権が競合しますが、同一事由にもとづく損害のてん補が重複して行なわれることのないように、各法律なり解釈なりによって調整が行なわれます。
労働基準法と労災保険法の関係、労働基準法の災害補償も労災保険の保険給付も、ともに業務災害による損失をてん補するものであり、同一の業務災害について労災保険による保険給付が行なわれれば、使用者は災害補償責任を免れることになります。
労災保険法と民法の関係、労災保険は、業務災害によって生じた被災労働者またはその遺族の損害てん補を目的としていますが、一方、民法上の損害賠償は加害者の不法行為によって生じた損害てん補が目的ですから、保険給付と同一事由にもとづく損害のてん補が重複しないよう、労災保険法20条1項および2項で調整されます。
もちろん労災保険の保険給付と事由を異にする慰謝料や物的損害に対する損害賠償については調整の対象とはされません。
労働基準法と民法の関係、労働基準法と民法の関係も、労災保険法と民法の関係と同様ですから、当然に調整をうけることとなります。つまり、労働基準法84条2項は「使用者は、この法律による補償を行った場合については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる」と規定し、損害の二重てん補を避けています。
労災保険法と自賠法の関係、自賠法は、自動車の運行によって生じた事故についての損害賠償について絶対無過失責任に近い責任を保有者に課しており、また、同法は民法の特別法たる地位を占めているわけですから、この関係については、まったく民法との関係と同様に考えてよいわけです。したがって、労災保険法20条の規定によって調整されることになります。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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