交通事故被害者が直接保険金を請求する場合

通常、車両保険金は、保険の目的を所有する被保険者に支払われます。
 しかし、被保険者は、実際には修理を施行した修理工場に免責金額分だけ支払い、残額は保険金を受領後に支払うとか、あるいは被保険者が所有権留保条項付売買契約の売主(ディーラー)で、修理費は、実際にその自動車を使用している使用者(ユーザー)が負担している場合に保険金が被保険者に一度支払われてから、さらに最終的に保険金を受領する立場にある者のところに行くこともあります。こうした中間の 時間的ロスをなくすためや、あるいは被保険者が保険金をもって他の債務の弁済に充当しようとする場合に、保険金の請求ないし受領の権限を、その目的に応じ、修理工場、ユーザー等に委任することができます。
 そのためには、通常「委任状」が用いられます。各保険会社にそれぞれ専用の委任状がありますが、共通の記載事項としては、委任を受ける者(受任者)の住所・氏名、請求および受領を委任する保険金の種類(車両・対人・対物・傷害の別)、委任する者の住所・氏名・捺印(要すれば印 鑑証明書を添付)等があり、これに、収入印紙を貼用し、消印を必要とします。
 なお、委任を受けた者が、さらに他人に委任すること(復代理)は、やむをえざる事由があるときを除いて、認められません。たとえば、自動車の所有権者たるディーラーがユーザーに委任状を出し、さらにユーザーが修理工場に委任することは、原則としてできません。もし、そのような方法をとりたいときは、委任者が「復代理人選任の件」の一項を委任状に明記することが必要です。
 なお、委任状の代わりに「直接支払指図書」を保険金請求書に組み込んでいる保険会社もあります。その効力は、委任状と同じですが、印紙税法上の印紙が不要であるという利点があります。
 また、質権者が保険金受領者を被保険者とするときには、委任状の代わりに「支払承諾書」あるいは「直接支払指図書」を質権者から取り付けることになります。

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私は修理工場を経営していますが、顧客の事故修理代金を直接保険会社に請求し、保険金を私の方へ支払ってもらうにはどのような手続きが必要でしょうか。

 このの場合は、車両保険金の請求に必要な書類とともに、被保険者から「委任状」ないし「直接支払指図書」を取り付ければ、直接保険金を支払ってもらえるわけです。
 対物保険でも、保険金を被害者に直接支払いたいとか、被害者の車両を修理した修理工場へ直接支払いたいという場合には、車両保険金の支払先変更と同様に「委任状」あるいは「直接支払指図書」をもっていけば、それらの者に保険金を直接支払ってもらうことができます。
 対人賠償保険金も、自賠責保険金と示談額の差額を「委任状」あるいは「直接支払指図書」によって、被害者本人またはその代理人、あるいは治療費が自賠責保険金だけでは不足のある病院等へ、保険会社から直接支払ってもらうことができます。

 私は過日、自動車を運転中に追突され、車を破損されたうえ、ムチ打ち症になりました。幸い一ヵ月て治り傷害による損害の一部は自賠責保険の被害者請求で充当しましたが、その残額と自動車修理代金は、加害者に支払能力がなく、対人対物賠償保険はつけているそうですから、保険会社から直接支払ってもらいたいと思います。手続きはどうすればよいでしょうか。

 この場合には、対物対人保険金を「委任状」ないし「直接支払指図書」を加害者から取り付けて、対物対人賠償保険金請求に必要な書類とともに保険会社へ提出すればよいことにな ります。
 ただし、示談前に被保険者が保険会社の承認をえていないときは、面倒なことがありますので、事前の注意が必要です。
 なお、車両保険金、賠償保険金とも、免責条項に該当する事故や、保険料入金前の事故のように、保険金請求権自体に瑕疵ある場合には、受任者にも保険金は支払ってもらえません。

対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/

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