労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか
当店のN運転手は、小型貨物自動車を運転し、市内の取引先へ製品を運搬中、M電鉄の無人踏切で一時停止を怠ったため、電車にはねられて重傷を負いました。このように道路交通法違反の場合、労災保険の適用を受けられるのでしょうか。
労働者が自己の業務を遂行している過程で電車などにはねられたりしますと、一般的にはこの事故は業務上の事故であるということになります。 ところが、労災保険法19条には、事故の原因が労働者の故意または重大な過失により発生したものについてつぎのような規定をしています。
「労働者が、故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となった事故を生じさせ、又は負傷、疾病若しくは障害の程度を増進させ、若しくはその回復を妨げたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を行なわないことができる」
これは、労働者が故意の犯罪行為または重大な過失によって被災したり、またはその原因となった事故を発生させた場合には、労働者に対して災害防止の注意を喚起するという意味から本来の保険給付の一部を制限したものです。
どんな事故が、労働者の故意の犯罪行為もしくは重大な過失となるかの判定は難しいことですが、実際には、つぎのような判断基準により取り扱うこととなっています。
「事故発生の直接の原因となった行為が、故意または重大な過失により労働基準法、鉱山保安法、道路交通法等危害防止について定めている法令の規定で罰則の付されているものに違反するなど、労働者としての注意を著しく欠いた場合 」
そこで、本問の場合、N運転手の事故についてみますと、同運転手が無人踏切で一時停止を怠ったもので、明らかに重大な道路交通法に違反していて、重大な過失といえます。したがって、支給制限の対象となるといわざるをえません。
そこで、このような労働者の重大な過失による事故については、どの程度の支給制限を行なうかといいますと、この取扱いの画一的な基準として、つぎのような取扱いが行なわれています。
(1) 支給制限の対象となる保険給付 当該労働者の傷病にかかる休業補償給付および障害補償給付
(2) 支給制限の期間 支給事由の存する間(障害補償年金については,当該障害の原因となった傷病について療養を開始した日の翌日から起算して、3年以内において支給事由の存する間)
(3) 支給制限の率 保険給付のつど所定給付額の30%
したがって、N運転手の場合には、労災保険から療養補償給付は100%支給されますが、休業補償給付についてはその30%とさらにN運転手は重傷ということですから、それがどの程度かわかりませんが、いずれにしても身体障害が残るものと考えられるので、この身体障害補償給付としてはその30%に制限されることになります。
もっとも、障害補償給付については、その障害の程度が第7級以上(障害年金のとき)の場合には、療養を開始して3年を過ぎてから支給事由の生じたものについては支給制限を受けないということになります。
このように労働者の重大な過失による支給制限は、休業補償給付と障害補償給付の2種類の給付のみに限定されています。これは、労災保険が労働者の災害補償ということをその目的としているということと、労働基準法79条においても、労働者の重大な過失による事故について事業主の災害補償が免責とされるのは休業補償と障害補償の2種類に限定していることとの関連からと思われます。
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