後遺障害保険金
被保険者が自動車事故等によって傷害をこうむり、その直接の結果として被害の日から180日以内に身体の一部を失い、またはその機能に重大な障害を永久に残した場合には、保険金額の一定割合が後退障害保険金として支払われます。
後退障害保険金は、昭和42年11月に約款が改訂されるまでは不具廃疾保険金とよばれていましたが、この不具廃疾という言葉からも分かるように、後退障害とは手や足を失ったり目が見えなくなったりした場合のように身体の一部を失うか、身体の機能を喪失することをいいます。このような身体の障害は、身体の各部位にいろいろな程度をもってあらわれますが、その代表的なものは保険約款に例示されています。
身体の一部を失うとは、文字どおり身体の一部であることを要し、義歯とか義足を失っても後退障害にはなりません。また、後遺障害といえるためには、永久に失うことが必要であり、生え加わる乳歯や爪を失っても、ここでいう身体の一部を失うということにはなりません。
さらに、後で述べますように、後遺障害保険金が支払われるのはある程度以上の障害であることが必要ですから、歯を1本失ったというような場合、それが身体の一部であり、かつ、永久歯で将来とも生え加わらないとしても、それだけでは後遺障害ないし不具廃疾とは認められません。約款では、歯の場合5本以上が一時に欠損したときは、保険金額の5%の後遺障害保険金を支払い、これに至らない欠損は、後遺障害にはならないことを規定しています。
つぎに、身体各部の機能に障害が残った場合ですが、この場合にも後遺障害保険金の性格からいって、あまりに軽微なものは対象になりません。後遺障害と認められるためには、その機能障害が重大なものであって、しかも永久によくならないということが条件になります。
後遺障害とは、一般的にいって、いわゆる後遺症に近いといえますが、この重大な機能障害が永久に続くことが条件になっている点で、後遺症よりは若干狭い概念ともいえるでしょう。約款では、重大な機能障害を、その程度に応じ、機能を全く廃したとき、著しい障害を残すとき、障害を残すとき、の3段階に使い分けて規定しています。
身体各部位の後遺障害を例示した約款別表をみれば、後遺障害は保険金額の3%が支払われるものから、保険金額の100%が支払われるものまでにまたがっていますが、後退障害の範囲で特に問題になるのは、後遺障害と認められる下限がどこかという点です。
約款に規定されていない障害とか、約款に規定はあるが具体的な基準が示されていない障害については、後遺障害と認められる下限は、保険金額の3%が支払われる程
度の障害とされています。傷害保険の後遺障害保険金のてん補率は、大部分労災保険の障害等級の基準をとり入れて作られたものですが、傷害保険で 「保険金額の3%が支払われる後遺障害」とは、労災保険ではちょうど最低ランクの14級に相当するのです。言葉を換えていえば、労災保険で14級にも該当しない障害、すなわち労災保
険で障害補償給付の対象にならないような障害は、傷害保険においても後遺障害保険金が支払われないということになります。
約款別表に明文規定のある後遺障害が発生したときは、約款に定めたてん補率がそのまま適用になります。たとえば、右腕を手関節より上部、すなわち、手首より心臓に近いところで失った場合には、保険金額の60%が後遺障害保険金として支払われます。
具体的に、ある障害が発生した場合に、約款別表のどの条項が適用されるかという問題があります。たとえば、交通事故で唇部に大ケガをし、咀しゃくが十分できなくなったとき、咀しゃくの機能を全く廃したときとして保険金額の100%が支払われるのか、著しい障害を残したときとして35%が支払われるのか、障害を残したときとして15%が支払われるのかということが問題となるでしょう。
この点については、公平で客観的な取扱いをするために、各保険会社では、労災保険の処理基準等をとり入れた後遺障害保険金算出についてのほぼ同じ内容の詳細な査定指針を用意しており、その指針に従っててん補金が定められています。この査定指針によれば、咀しゃく機能の障害の例では、流動食しか摂取できない場合を「咀しゃく機能を全く廃した」といい、粥食またはこれに準ずる程度の飲食物しか摂取できない場合を「咀しゃく機能の著しい障害」といい、ある程度固形食も摂取できるが摂取できる飲食物に制限があり、咀しゃくが十分でない場合を「咀しゃく機能に障害がある」というと定められております。このように、約款適用について、客観的かつ社会的にも妥当性のある基準が示されています。
つぎに、約款別表の中に、その障害に適用される規定のない場合が問題になります。
後遺障害は、身体の各部にいろいろな程度であらわれるため、すべてを約款に網羅することはできませんので、こういう例が起こることも少なくありません。この場合には「被保険者の職業、年齢、社会的地位等に関係なく身体をき損された程度に応じ、かつ、別表各号の区分に準じ、保険金の支払額を決定」することになっていますが、別表の区分が労災保険の基準を大幅に取り入れているので、具体的には,労災保険の障害等級を参考に後遺障害保険金のてん補率が算出されます。
普通条件の契約では、後遺障害保険金の支払われるケースは、必ず医師の治療も受け業務支障もある筈ですから、医療保険金も請求できます。この二つの保険金は、それぞれ独立していますので、もちろんこのような場合には、両保険金の合算額が支払われます。しかし、いずれの場合でも保険金額が限度で、もし既払いの保険金があれば、保険金額から既払分を控除した額までしか支払われません。
社会問題にまで発展しているムチ打ち症も現在のところまだ治療方法、治癒の可能性等について解決されていない問題が多く残っています保険上は、ムチ打ち症のように、事故後180日以内で後遺障害が確定していないものについては、この期間の満了する前日の医師の診断で保険金を決定することにしていますが、一ロにムチ打ち症といっても程度の差が大きいので、いちがいに保険処理を決めることもできません。後遺障害といえるためには、重大かつ永続的な障害でなければなりませんので、終決する見込みのあるものや神経症的ムチ打ち症では保険金は支払われません。一方、ムチ打ち症のため廃人同然になった場合には「身体の著しい障害により終身自用を弁ずることができないとき」に該当し保険金額の100%が支払われることもあります。通常は、障害が永続的とみられるものに対し、障害の程度に応じ保険金額の3%から10%が支払われるケースが最も多いようです。もちろん、ムチ打ち症も日常業務に影響のある場合には、後遺障害保険金とは別に医療保険金が
支払われます。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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