相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか

一般的に、不法行為によって相手の車を破損した場合、その修理費が損害となることは当然ですが、修理不能の場合に、その車の時価額をもって損害額とするのか、あ るいは新品調達費用、つまり新車購入価格をもって損害額とするのかは問題のあるところです。車が修理可能の場合には、それを修理することによって財産的価値は一 応回復し、もし交換価格に減少があるならばそれを賠償することによって、原状は回復されたということができますが、修理不能の場合は、交換価格の賠償のみでは原状回復が期待されないこともあります。
 裁判例の中にも、中古品が滅失、毀損された場合に、その価格相当の金額では失われた物と同種・同程度の物を取得することが不可能なときには、新品を購入する以外に原状回復の方法がなく、これに要した費用は相当因果関係の範囲内の損害であると判示したものがあります。また、これと同じようなものに、購入後間もないならし運転中の車を大破させた事故について、「事故時の価格で同種、同程度の車を取得することは不可能であって、自動車を原状に復するには同一型式の新車を購入するほかに方法がなく、これに要した費用は全額この事故によって生じた損害である」とした例があります。
 このように修理不能の場合に、その車の事故時の交換価格では、同種、同程度の車が購入できないときにかぎって、新車購入価格をもって損害と認めておりますが、それというのも、自動車は、およそ財産的価値を保有する手段としてのみ持たれるのではなく、営業用あるいは生活の手段として保有されるものですから、交換価格の賠償のみでは、損害がすべててん補されたことにはならないという根拠に基づくものです。

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新品調達費用を認めた裁判例でも、無条件にこれを損害であるとしているのではなく「事故時の交換価格では同種、同程度の物を購入することができない場合」というように限定しております。この点自動車の場合は、流通性のない他の物品と違って中古車市場がきわめて豊富で、同種、同程度の車を購入することはさほど困難なことではありませんので、判決の中で理由としている同種、同程度のものが絶対入手不可能ということには当たらない場合も少なくないといえます。
 したがって、購入後1ヵ月しかたっていない車であっても、修理可能な場合は、新車交換の費用は認められません。往々にして被害者は、新車であればあるほど、たとえ修理可能であっても新車交換を要求してくるものですが、このような場合は、その修理費と交換価格の減少部分つまり格落ち部分が損害であって、新車交換の費用までは格別の事情のない限り認めることは相当ではありません。また、かりに修理不能な程度に大破した場合であっても、必ずしも新車交換の費用まで認められるというものではなく、原則的には、事故時の交換価格が賠償額であると考えるのが社会的妥当性があると思われます。
 新車交換の費用は認められないとして、修理可能の場合には、その修理費と交換価格の減少部分、いわゆる格落 ち損害が、賠償の対象となることは、すでに述べたとおりですが、実際上、この格落ち損害をどのように算定するかはむずかしいところです。
 格落ち損害は、破損前の自動車の交換価格から破損後のその車の交換価格を控除した額ですが、この交換価格の算定方法としては、いわゆる法定償却による方式があります。これは会計学上、税法上採用されている固定資産の減価償却額の計算方法ですが、流通性のない特殊車とか特別仕様の車以外は、中古車市場で通用するものではありませんので、交換価格の算定方法としては適当ではないといえます。
 やはり自動車価格表や、最近時の同種、同程度の中古車の市場下取価格や市場販売価格を基礎に、その車の状態、使用期間、走行距離、車検有効期間、過去の使用管理状態、同車種の市場における流通性、さらには事故歴などを斟酌して算定するのが、もっとも具体的妥当性があるといえましょう。
 しかし、実際問題としては、事故後に事故直前の交換価格を直接算定することは不可能なことで、厳密な意味での評価は明らかに無理な話です。格落ち損害が実際上、算定困難なゆえんですが、事故解決の示談の実態も、格落ち損害の賠償は消極的であり、一般的にはあまり行なわれていないようです。
 なお、商品販売車とか新車購入後間もないとか、あるいは事故直前に車両入替えのための下取評価がすでに行なわれていたとかいうような場合には、格落ち損害の評価も容易ですが、それ以外の場合などで実際に格落ち損害を評価しがたいような場合には、一般修理以上に新品部品との交換で、できるだけ格落ちを防ぐように修理するのが妥当な方策といえます。

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