傷害保険を申込むときの問題点
傷害保険契約を結ぶ際どんな点が問題になるか、知っておくことは大事なことです。
人の生命の価値は金銭では計れないとよくいわれますが、これは当然のこととしても、経済行為である保険の契約においては、いろいろな制約もあっておのずから保険金額は落ち着くところに落ち着くものです。
保険契約者の側からみれば、保険金額を高くすることは保険料がそれだけ高くなるという陰路があり、保険会社からみれば、あまりに高過ぎる保険金額は引受技術上の問題があり、適正なところで保険金額を定めたいという要請があります。保険会社によっては、1披保険者について一定の保険金額以上の引受をしないことを会社の引受方針としているところもあるようです。
死亡の場合の保険金額を定めるにあたっては、保険料の額が判断の基本にあるとしても、自動車事故などによって突然死亡した場合に残される家族の生活設計を考慮することが必要でしょう。
後遺障害保険金に関しては、思いもかけぬ身体障害で生涯生活に支障がでてきたり、あるいは転職を余儀なくされる事態が起こることをも考慮し、保険金額を定めることが必要でしょう。医療保険金については、ケガで休業したり欠勤する場合、収入の減少は1日どの位あるか、通院や治療のための費用として1日どの位見込んでおればよいかといった点を考え、保険金額を定めることが必要です。
このような点と、負担しなければならない保険料を較量して保険を申込むことになりますが、保険会社では、つぎのような場合は別として、この申込みをもちろん問題なく引き受けます。保険会社で特に問題とするのは、保険金額が著しく大きい場合申込みなどの場合と医療保険金にかかわる保険金額が著しく大きい場合で、このような場合には保険会社は慎重な取扱いをします。
医療保険金は、実損害と関係なく、保険金額に比例して算出されるので、もし普通条件で1000万円の保険を付ければ1日あたりの医療保険金は1万円ということになります業務支障期間が1ヵ月であれば、医療保険金は30万円ということになります。低収入の人がこのような条件の契約をすることは,収入減少の他に医療費の支出等を考慮しても、なお、かなり高い医療保険金といわざるをえません。いくら実損害に無関係とはいっても、このような引受は社会的にも問題があり、保険会社もその引受には消極的です。
結局、死亡や後遺障害の場合には高い保険金額で、医療保険金の場合には収入減少や医療費支出等に見合う必要にして十分な保険金額で保険を付けることが、付保の動機を充たすことからも、また、保険料の負担の面からも、理想的といえるでしょう。
交通事故傷害保険では、幼児も老人も年齢に関係なく保険に加入できます。保険料も年齢による差はありません。
しかし、普通傷害保険では,担保危険が複雑化しているため、保険契約のときに、被保険者の年齢が満70歳以上なるときは当該保険契約は無効になります。ただ、割増保険料を支払って高齢者特約を付ければ、満70歳以上満80歳未満の人までは傷害保険契約ができます。幼児は、普通傷害保険でもなんらの制限もなく保険に加入できます。
生命保険では、たいていの場合、保険加入の前に保険会社の嘱託医が健康診断を行ないますが、傷害保険では、健康診断の行なわれることはほとんどありません。生命保険と違って、傷害保険は事故による傷害を担保し、疾病を担保しないという特性にも関係があるのでしょう。
しかし、保険契約は最大善意の契約といわれ、保険契約者は契約締結時に重要な事実はすべて告知しなければならないという義務を負っています。そして、この告知義務にもとづいて、被保険者の既往症とか身体障害の事実があれば、それを保険申込書に正しく記入することになっており、もしこれを怠ると契約は解除され、保険金も支払われないことになっている点に注意を要します。事故の発生した後においても、通常は信頼すべき医師の診断書に基づいて、保険金を決定し、特に保険会社の医師の診断を求めることはありませんが、ただ傷害の原因および程度について保険会社側から調査の申出のあった場合には、保険会社の医師による被保険者の身体の診察にも応じなければならないことになっています。
同意をえないで、他人を被保険者とし、かつ、保険金受取人を被保険者以外の者とする傷害保険契約は無効になります。この商法674条の規定は、モラルリスクを排除する目的で生命保険に関して定められたものですが、同じく人の生命、身体を対象とする傷害保険においても、同様の趣旨を保険約款で規定しています。
この規定は、その趣旨からいって強行規定であり、被保険者の同意をえないで有効な契約を締結できるとする特約は、公序良俗にも反し認められません。
被保険者の同意は、実務上、保険申込書に同意の捺印をすることで確認されるのが通例ですが、会社が社員を被保険者とし、会社を保険金受取人とする傷害保険契約を結び、保険金をもって会社の弔慰金にあてるような場合には、労働協約、就業規則等に、この旨の保険条項を折り込み被保険者の同意を確認することが行なわれています。
当然のことですが、被保険者の同意をえないで締結した契約でも、被保険者自身が保険金受取人であるものは、公序良俗に反しないので有効です。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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