過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係
民法722条2項は、被害者に過失があった場合は、損害賠償の額を決定する際に、衡平の見地からその過失を考慮することができる旨規定しています。
対人賠償保険の損害額は、法律上の損害賠償額ですので、この民法の規定により被害者側に過失があった場合は、その部分を損害額の中から控除しています。また、被害者本人以外の者の過失につき被害者側の過失とされる場合もあります。
自動車事故の場合、被害者にもなんらかの不注意があるケースが多く、その不注意相当部分は、被害者自身が負担するのが損害の衡平なる分担からいって、当然と考えられるからです。
保険会社は被保険者からの事故通知を受けたら、必要と認めればただちに所轄警察署における調査を行ない、また事故当事者双方から、事故の状況その他を十分に調査のうえ、事実認定にもとづき被害者側の過失割合を認定しています。
近年、交通事故による損害賠償額が高額化し、新聞・テレビ等でも1億円をこえる判決例がいくつか紹介されていますが、裁判所も認容損害額の高額化の反面、被害者側の過失についても考慮酌量するのが普通です。保険会社でも,判決例を行為類型ごとに分類し、類似判例を参考として過失割合を認定して適用しています。
たとえば、保険実務上、判決例に従ってつぎのような過失割合が比較的多く適用されます。
車両対歩行者の場合
幼児の場合の監督義務者の過失 20%〜30%
横断歩道外を横断した場合 30%〜40%
露地や停車中の車の陰から飛び出した場合 30%〜50%
横断禁止場所の横断の場合 30%〜60%
信号無視 40%〜80%
飲酒のうえ路上に横臥中の場合 40%〜80%
道路歩行中の一般的不注意 10%〜30%
路上作業者の場合 20%〜30%
車両対車両の事故
正面対向車との衝突 50%〜70%
交差点での出合いがしらの衝突(一時停止不履行) 50%〜70%
被宿車が直進で、加害車が右折または左折の場合 20%〜70%
被害車が右折または左折で、加害車が直進の場合 40%〜70%
加害車が直進で、被害者Uターンの場合 40%〜50%
並行接触 20%〜50%
本人以外の者の過失が斟酌される場合と同乗者の過失
同乗者本人に過失がある場合 30%〜60%
被害者側として本人以外の過失が本人につき斟酌される場合 20%〜60%
これに対して、自賠責保険は、被害者保護の立法趣旨から、被害者に重大なる過失があった場合のみ過失相殺を適用し、その相殺率も20%ないし30%です。重大なる過失とは、たとえば、無免許または飲酒して自動車を運転し、中央線をこえる等運転を誤って他車と衝突したようなケース。追越禁止区域で前車を追い越そうとして中央線を越え、対向車等と衝突したケース。交差点で明らかに信号を無視して進行し、他車と衝突したケース。制限速度を著しく超過して中央線を越え、また中央線付近を進行し、対向車と衝突したケースなどをいいます。
このように、対人賠償保険と自賠責保険では、過失相殺の適用事例およびその割合が相当大きく速いますので、被害者の過失が大きい場合には、賠償額が自賠責保険の
限度順以下になってしまうこともあります。
自賠責保険金も、法律上の損害賠償金として被害者に対して支払うものですから、過失相殺を適用する場合は、それ
を含んで相殺率を適用すべきものと解するのが正当と考えられます。
過失相殺の適用および方法は、裁判所の自由裁量に属しますが、判例の傾向はまず被害者の認定損害額を算出し、それに対して過失相殺を行ない、自賠責保険金を損益相殺してから判決額を決定しているようです。したがって、自賠責保険金を含んで過失相殺を行なっていることになります。
このように、過失相殺は、自賠責保険を含んで行なわれますから、認定損害額の比較的低いグループ、たとえば、幼児・小学生・家庭の主婦・50歳以上の無職者等のケースでは、被害者に過失が大きい場合には、対人賠償保険の対象にまでおよばない例がかなりありますから、賠償金額の認定にあたって注意が必要です。
保険約款賠償責任条項1条3項は、事故を起こした自動車が自賠責保険を締結すべき自動車である場合は、法律上の損害賠償額が自賠責保険で支払われる金額を超過する場合にかぎり、その超過額をてん補する旨規定しています。
したがって、自賠責保険の限度額以下であっても法律上の損害賠償額が自賠責保険金を超過すれば、その差額が対人賠償保険で支払われます。
対物賠償保険金が支払われる事故/ 対人賠償保険金の支払われる事故/ 賠償保険の対象者/ どのような場合に賠償保険金を支払ってもらえないか/ 他人から預かっているものを破損した場合の賠償保険/ 記名被保険者に対する賠償保険/ 従業員の自動車事故による負傷に対する賠償責任/ 自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合/ 相手の車の格落ち損害も賠償保険の対象になるか/ 相手の車の休車損害や代替車費用も賠償保険の対象になるか/ 相手の車にも不注意のある場合の賠償金の支払/ 相手車との衝突で第三者の物件を損壊した場合の賠償責任/ 争訟費用も賠償保険の対象となるか/ 対人賠償保険で支払われる損害の範囲/ 好意同乗者に対する保険の適用と共同不法行為の決済方法/ 過失相殺される場合の自賠責保険と任意賠償保険との関係/ 搭乗者傷害保険金が支払われる事故/ 搭乗者傷害保険の保険金の算出方法/ 搭乗者傷害保険金の支払われない場合/ 搭乗者傷害保険を貰った時は賠償請求金額を減額されるか/ 事故が発生した場合の一般的義務/ 事故が発生した場合の各担保種目別の当面の処置/ 示談の前には保険会社の承認が必要/ 交通事故の示談書の内容/ 保険金の支払い請求権者/ 交通事故被害者が直接保険金を請求する場合/ 示談の前の保険金の支払/ 交通事故を対象とする傷害保険の種類/ 傷害保険でいう身体の傷害/ 交通事故傷害保険の対象となる事故/ 死亡保険金の支払われる場合/ 後遺障害保険金/ 医療保険金/ 傷害保険を申込むときの問題点/ 傷害保険が重複した場合の処理/ 傷害保険金が支払われない場合/ 第三者から賠償金を受領した場合の傷害保険金/ 傷害保険の請求手続き/ 生命保険と傷害保険/ 労災保険/ 通勤途中の電車での事故/ 出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故/ 従業員の慰安旅行中の事故/ 労働者の重大な過失による災害も労災保険の対象となるか/ 第三者行為災害の意義/ 労働保険の給付と損害賠償や自賠責保険との関係/ 労災保険給付にあたっての加害者からの賠償の控除/ 求償や控除の範囲/ 同僚労働者の加害の場合に求償権を行使しない場合/ 示談と労災保険給付の関係/
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