出張の帰路の際に知人の車に便乗している間の事故

私の友人が社命で出張し、用務を終えて電車で会社に戻ろうとしたとき、自家用事を運転していた知人に会い、その車に便乗して進行中、接触事故のため負傷しました。友人は自由意思で便乗したのですが業務上の災害となるでしょうか。
 労働者の事故が業務上であると認められるのは、当該労働者の業務が原因となった事故、つまり業務起因性の認められる事故であるかどうかということが要件となります。この場合、労働者の業務とは事業主の支配下にある状態を意味しますが、出張の場合には、特に事業主の支配下にある状態といえるかどうかという点が問題になりましょう。もちろん、出張といってもその態様は実際には千差万別で、これを定義づけることは難しいことですが、一般的には「出張とは事業主の包括的又は個別的な命令により、特定の用務を果たすために、通常の勤務地を離れて用務地へおもむいてから、用務を果たして戻るまでの一連の過程を含むもの」と考えてよいでしょう。このように、出張中は、その用務の成否や遂行方法等について包括的に事業主に責任を負っている以上、特別の事情がないかぎり、一応出張過程の全搬について事業主の支配下にあるといってよく、その過程が通常のまたは合理的な順路方法によっているかぎり全般に業務遂行性があるとみられます。
 しかし、出張中は事業主の管理下を離れている状態ですから、その間の個々の行為については事業主の拘束を受けておらず、出張者の任意に委ねられているため、その間には、様々の私的行為が行なわれることがあるでしょう。また、出張の性質上、ある程度私的行為が介在することは、むしろ通常ありうることですし、一般的に、業務に附随する行為の範囲も、事業主の管理下にある場合よりは広くなってくるものと考えられます。

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したがって、出張中の個々の行為については、積極的な私用、私的行為、恣意行為などは別として、それ以外は一般に出張に 当然または通常ともなう行為とみて業務遂行性を認めることとなっています。たとえば、出張途上にある場合には、通常のまたは合理的な順路および方法によっているかぎり、業務遂行性があるということができましょう。したがって、その間の個々の私的行為の際に発生した災害についても、その行為が出張に当然または通常伴う範囲内のものであるかぎり、一般に業務起因性が認められることになります。また、通常の、または合理的な順路および方法によっているというのは、出張用務外の私的目的で迂回順路をとるとか、非常識なまたは特異な順路、方法による場合等を除き、一般的に考えられる順路、方法によっていれば足りるものと考えられています。
 このような考え方をもとにして、本問の出張についてみますと、その友人が社命で出張した以上、用務を終えて会社に戻る過程であっても、会社を出発してから会社に帰りつくまでの全過程は、一応業務遂行性があるとみることができましょう。
 そこで、問題となるのは、その友人は本来は電車を利用して帰社しようとしたのをたまたま知人と会い、その車に便乗したという点でしょう。つまり、このことが出張過程としての合理的な順路、方法とみなされるかどうかということです。もちろん、本来は電車を利用するということを友人自身が考えていたように、この場合の合理的な順路、方法の最良なものとしては電車を利用するということでしょうが、それだけが、出張先から帰る唯一の合理的な順路、方法だとはいえません。たとえば、タクシーを利用するとか、場所によってはバスを利用するという方法も考えられるからです。
 したがって、友人が自動車を利用して会社に向かったという方法、順路は、出張順路、方法として決して不合理なものということはできないと考えられます。
 ところが、友人が利用した自動車がタクシーやバスでなく、知人の自家用車であったということがなお問題となりますが、この点もかりに友人自身が自家用車を特っていて、自分の車を運転して出張したという場合を考えてみますと、この方法も決して合理的でないとはいえません。
 したがって、たとえ友人が知人の車に便乗して帰社しようと考えたとしても、このこと自体は単に交通機関を合理的に選択したということであって、特に積極的な私的行為で業務遂行性が失われるとみることはできませんから、このために起きた友人の事故は業務上とみなされると考えてよいと思われます。

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