自動車事故によって同居親族に傷害を与えた場合
被保険者の同居の親族に対する賠償責任は免責とされます。損害保険は被保険者のこうむった経済的損害をてん補するものですから、同居の親族の場合、被保険者と経済的共同体内の内部関係にすぎないこと、同居の親族間の問題にはねもっぱら親族間にその解決を委ねることが相当で、第三者が介入することは望ましくないこと、同居の親族間に果たして賠償責任が生ずるかどうかについても疑問のあること、また、事実上そのような賠償請求が行なわれていないことなどを考慮して免責としたものです。
スポンサーリンク同居の意味は、通常、同一家屋内に居住している者を指すのか、または、同一家屋に居住し、かつ、生計を共にしている者を指すのかについて争いがあります。しかし、後者を正当と解すべきでしょう。何となれば、免責の趣旨が「財布が一つ」の親族について、賠償の受益者と供益者とが、結局は同一となる場合を免責にしようとするものであるからです。また、日本の約款が模範とした米国約款の定義によると親族とは、家計を共にする同居の親族とされています。
これらのことからしても、家計を共にしている親族を指すものと考えるべきものと思われます。親族の範囲は、民法の規定のとおり6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を指しますが、内縁の妻も、この免責条項の範囲に合まれると解されています。
被保険者が法人の場合には、法人に親族はありえないので、法人の業務に従事中の使用人が、その使用人の同居の親族の生命、身体を害したような場合に、法人が負担する賠償責任については免責とならないようにも解されます。しかし、このようなときには、そもそも、その同居の親族の損害賠償請求権行使による実質上の受益者が加害使用人になりますから、その権利の行使は権利の濫用となるものと考えられます。
日本の不法行為法には、親族間の損害賠償請求について特別に規定されたものがありません。英米では、配偶者は相互に訴権がないとされるのが通例であり、年少の子も同じく親に対する訴権がないとされています。日本でも、考え方としては、親子、配偶者間などの問題は、損害賠償責任
の問題ではなく扶養義務の問題であるとか、不法行為法上の他人ではないとかいう見解があります。かりに賠償請求権が発生したとしても、その行使は、公序良俗違反ないしは権利の濫用にわたるとか、あるいは権利の行使が許されるとしても、賠償額の範囲は制限されうるというような見解があります。配偶者間については 「妻は他人である 」とする下級審の判決もありますが、その判決の趣旨も実態上そのような請求権行使は行なわれていないことを認め、自賠責保険の制度が社会保障にあるから、強賠保険という制度内での被害者請求を許すというようにも解釈されております。したがって、かりに同居の親族ではない場合であっても、配偶者、親子間等経済的に同一体である社会単位内として考えられる限り、現在の段階では、任意保険による保険てん補は期待できないものと思われます。
したがって、搭乗者傷害危険担保特約を付保するか、交通事故傷害保険を付保して、同居の親族の損害にそなえる必要があります。
被保険者が同居の親族の生命、身体を害したことによって、他の別居の親族に対し損害賠償責任を負担した場合、たとえば、妻を死亡させ、別居している妻の父母が固有の慰謝料請求権を行使したような場合、または別居の親族の生命、身体を害したことにより、同居の親族が被保険者に対し、損害賠償請求権を取得したときは、文理上からは前者が免責とされず、後者が免責となるようにも考えられますが、常識的にみてもきわめて不合理のように思われます。
現行の約款が模範とした英文約款では、同居の親族の生命、身体を害したことによって生ずる賠償責任を免責としており、これと同様に解さねばならないと思われます。そうでないと、請求の方法によって保険てん補の有無ないしは額が変わり、しかもい
たずらに法律関係が複雑となり、結果的に免責の趣旨が失われるからです。なお、英文約款では、対人賠償責任のみを免責としていますが、日本の現行約款はそのほか
対物賠償責任も免責としています。
前述のとおり、同居の親族に傷害を与えたことにより賠償責任があるか否かについても疑問がありますが、かりに責任があるとしても、被害者本人に対する賠償責任は免責となることはもちろん、この傷害により、別居中の被害者の近親者が固有の慰謝料請求権を取得したような場合にも免責とされます。
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