傷害保険でいう身体の傷害

人の身体に起こる災厄は、主としてケガと病気に大別できますが、大ざっぱにいえば、傷害保険は、ケガを担保する保険といえるでしょう。刑法の傷害罪でいう傷害は、ケガと病気を区別しないで、身体の完全性を害し、生活機能に障害を与えれば傷害になるとされます。たとえば,他人に病原菌を注射して感染を起こさせても傷害罪に問われます。しかし傷害とは、もともと人の身体に傷が生ずることをいうものであり、傷害保険の場合には、その性格上、傷害の定着についても、その原義に戻って考えることが必要と思われます。
 しかし、実際には、疾病とは異なり、明らかに外来の事故的な原因によって生じながら、外傷が発生しないものもあります。いわゆるムチ打ち症(頚椎捻挫)のごとき捻挫とか筋違い等がそれです。また、即死したためにケガをこうむる暇もない場合もあるでしょうが、これらは、もちろん傷害にあたります。その他、自動車ごと湖に落ち溺死した場合も、外傷はありませんが傷害による死亡になります。
 結局、傷害とは、外的な力が加わったために生じた身体各部の物理的な異常反応ということができるでしょう。

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自動車事故で負傷し、入院中に病気を併発しました。このため治療期間が長引いたり、あるいは死亡した場合、傷害保険では、どのような処理をするのでしょうか。

 傷害と疾病とは、微妙に影響しあうことがあります。傷害保険では、傷害を担保し疾病を対象としないところから、傷害と疾病が絡み合った場合に、保険処理をどうするかが問題になります。
 この例のような場合、もし傷害によって疾病が惹き起こされたものであれば、すなわち、傷害と疾病の間に相当因果関係があれば、疾病にもとづく損害も傷害保険の対象になります。たとえば、自動車事故で大ケガをし輸血を受けたところ血清肝炎にかかったような場合、血清肝炎という疾病は、交通事故による傷害と相当因果関係があるので、これによって業務支障期間が延びた場合には、その期間についても医療保険金が支払われます。
 しかし傷害と直接の関係がなく疾病を起こした場合には、もちろんこの疾病にも とづく損害は担保されません。たとえば、自動車事故で入院中に風邪を引いて肺炎になったとしても、肺炎は自動車事故による傷害と相当因果関係があるとは認められませんから、これによる損害に対しては傷害保険金は支払われないことになります。
 つぎに、自動車事故等で傷害をこうむったとき、すでに存在していた疾病の影響で、その傷害が悪化したような場合や、傷害をこうむった後に、その事故と関係なく発生した疾病の影響で、その傷害が悪化した場合が問題になります。たとえば、前の例で自動車事故でケガをし、入院中に肺炎にかかった場合、肺炎の影響でケガそのものの回復まで遅れたらどうなるかという問題ですが、この点に関しては交通事故傷害保険約款8条に規定があり「疾病の影響がなかった場合に相当する金額を決定してこれを支払う」ことになっています。普通保険約款にも同趣旨の規定がありますので、これは傷害保険の共通の取扱いということができます。しかし、実際問題としては、疾病の影響がなかった場合に相当する金額を決定することはなかなか困難なので、医師の所見を十分に徴したうえ、当該傷害の通常の治療期間を著しく越えた場合には、その越えた部分を担保外にすることになるでしょう。
 傷害保険は、その名のとおり、傷害のみを対象とし、疾病を担保しないのが建前ですが、疾病を担保する傷害保険が全くないかといえば必ずしもそうではありません。国外旅行傷害保険に付される「疾病危険担保特約」が、その唯一の例外的存在です。
 この特約は、疾病による損害のうち、入院、職業看護婦、手術を要した場合に、入院費、入院諸雑費、職業看護婦費、手術費を、それぞれあらかじめ約定された条件に従い、定額的に支払われるものです。

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