対物賠償保険金が支払われる事故

対物賠償保険のてん補範囲については、約款賠償条項に「自動車の所有、使用または管理に起因して、他人の財物を滅失、毀損または汚損すること」により「法律上の損害賠償責任を負担することによって披る損害」をてん補する旨規定されています。
 賠償責任発生原因事由の一つとして、それが保険目的(自動車)の所有、使用または管理に起因したものでなければならないと規定したものです。たんに、保険の目的である自動車の周辺で起きた事故ではなく、自動車自体の所有、使用または管理に起因した事故のみが対象となります。
 たとえば、自動車の運転者が窓から瓶を投げすてて、商店のガラス戸を破損したような場合には、自動車自体の所有、使用、管理に起因する事故とはいえません。
 所有、使用、管理とは耳なれない言葉ですが、欧米の自動車保険の用語を直輸入したものです。とくに、それぞれ、所有、使用、管理という別個の分野があるのではなく、その分野は互いに重複しています。自動車の運行に関係のあるほとんどすべての場合が含まれ、自動車自体が加害の物理的原因となるべき場合を指しています。自動車に積載されている貨物によって、運行中に事故が発生した場合も、運行中は「貨車一体の原則」といって、自動車と貨物は一体視され、積載された貨物の落下などによって事故が発生しても、自動車の所有、使用、管理に起因する事故とみなされます。ただし、貨物自体の有害な特性によって生じた場合は除かれます。

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ここでいう他人の意味については、所有、使用、管理の直接の当事者以外の者を指します。その他人の財物を滅失、毀損、汚損することによって生した賠償責任のみがてん補されることになります。
他人の財物になんら前記の損害を与えずに、法律上の損害賠償責任を負担することがあります。そのような場合についてまでてん補しては、保険責任の範囲があまりにも拡大し、かつ、損害賠償責任の有無について、現在の法令、判例に照らしても解決が困難なので、これを回避したものです。
 財物とは字句どおり、有体財産をさしています。したがって、例えば、踏切でエンストを起こし、その結果、急行列車を止めることによって、鉄道会社から列車遅延の損害を請求された場合とか、人通りの多い商店街で、単独転覆事故を起こし、特定商店に直接の被害は与えなくとも、警官等の事故現場調査のための立入禁止処分によって、営業上の損害を与えたような場合には、他人の財物につきなんら滅失、毀損、汚損を与えていませんから、保険事故とはいえません。
 もっとも特定人の財物を滅失、毀損、汚損させることにより、その人以外の者に対し賠償責任を負担する場合は、この条件が、人に限定するものでなく、賠償責任の発生事由に関するものですから、とうぜん、保険事故となっててん補されます。
 すでに述べた二つの事故発生原因についての条件が充たされる場合で、かつ法律上の損害賠償責任を負担することによって損害をこうむることが保険金支払いの条件となります。契約によって、この損害賠償責任が加重されている場合や、損害賠償責任発生の原因要件が緩和されている場合については、てん補されません。法律上の損害賠償責任の発生要件を充たしていないのに、事故発生後、保険者の承諾のない和解契約(示談)等によって、責任を負担した場合も同様にてん補されません。

「損害をこうむる」とは、たんに抽象的に責任を負っただけでは足らず、履行すべき債務額が確定することが必要です。すなわち、判決、調停、和解、示談などによって、賠償額が確定しなければなりません。
 「保険会社の査定額を支払う」などという示談では、賠償額が確定しているとはいえませんし、その示談自体も有効とはいえないでしょう。
 また、損害をこうむるといっても、相手に支払うことまでは必要ありません。裁判上、裁判外を問わず賠償額が確定したときに、保険事故が発生したことになって、保険金請求権が発生します。旧契約では、履行した額の4分の3をてん補することになっており、被保険者は、現実に賠償金を支払わなければ、保険金の請求ができませんでしたが、それでは多額の賠償額を負担したときに、いつまでたっても保険金の請求ができずに、保険契約の効用も、若干薄れますのでこのように改訂されたわけです。
 なお、損害賠償責任といっても、事務管理者からの民法702条の費用償還請求権や、共同不法行為者からの求債権も、とうぜん、実体的には、損害賠償請求権と異なりませんから、てん補されます。

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