車の死角と運転手の責任

自動車には運転席から見えにくくなる死角があります。この死角内で起こった事故だからといって、すぐに運転者に責任がないとはいえません。どんな場所が死角で、どんなときに責任がないといえるでしょうか。
 車両の運転席から見た運転手の直接可視可能範囲およびバックミラー、サイドミラー等の映写による間接可視可能範囲以外の場所を死角と呼んでいます。通常問題となるのは、バスやトラックなど大型自動車の発進直前に幼児が車の前部にいて運転手に発見されないまま衝突させられたとするケースが多いようです。どのような範囲の位置関係が当該加害車両にとって死角になるかは、科学的専門家の手による鑑定を必要とします。
 ところで死角は、当該車両にとって固定的なものではありません。現実の道路の凹凸、路面の傾斜、左右地上の高低差、運転手の座高、目の位置、中間における障害物等の存在によって異なってきます。窓わく、その他自動車付属備品のおかれた位置によっても異なります。このうち、目の位置を移すことによって死角の角度、位置、大きさ等を変える範囲もあります。これを潜在死角とも呼んでいます。

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被害者が死角範囲内にいたことによって事故が起こった場合、運転手に刑事責任を科すことは問題があります。発車直前に被害者が突然に死角内にはいり込んできた場合のように、被害者側の一方的な過失の場合は、運転者には責任はなく無罪と言えます。しかし、死角内に被害者がいたからといって、すべて無罪ということにはなりません。運転者としては、自己の運転する車両の特徴は十分に把握しておくべきですし、いかなる範囲に死角があるかを確定しておき、車を発進させるときは、身体を乗り出すなどして前後左右を注意することは常識的な義務です。車の下で休んでいた修理工を轢いてしまった場合、自動車の背後にいた幼児をバックして重傷を与えた場合など、運転者としての注意をつくしていないとして判例は有罪としています。結局、被害者が信号を無視したとか、突然にバスの前後を横断したとか、被害者に過失があり、これと死角が一致したとき、運転者に責任がないのだと言えましょう。
 そこで大型車両の運転者は、発進時、後退時には厳重な注意が必要です。とくに幼児が近寄るような状況の場所では警戒しなければならないでしょう。なお車掌の合図にまったくたよることは許されないとされていますので、自分ででぎる限り確認しなければならないでしょう。動くものとしては、平行して走っていた自転車が、途中から死角にはいってしまう場合もあり、やや似た事例としては、対向車との関係で横断中の歩行者の蒸発現象というものもあります。

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