裁判手続きはどのようにして進められるか
起訴から判決宣告にいたる手続きのあらましはどうなっているのでしょうか。公判の手続き、とそれに対する控訴審、上告審の性質を考えてみました。裁判とはどんな手続きに従ってやるものなのでしょうか。
交通事犯にあって、すべての加害運転者が公判の裁判にかけられるものでないことは、おわかりのことと思います。警察官から送致を受けた検察官の段階で、起訴、不起訴にふるいわけられます。起訴される事件のうち大部分は、略式命令、即決裁判などの簡易な審理により罰金や科料などの処罰ですまされています。
そこで、ここでは、最も重い処罰の対象となる公判手続きを概観してみましょう。検察官の起訴により公判手続きの請求が裁判所になされますと、事件の審理は、公開の法廷で犯罪事実(公訴事実)について審理がはじまり、検察官と弁護士との立会いのうえで、事実が明らかにされ、最終段階に至ると裁判所の判決宣告ということになります。裁判所が行なう起訴から判決に至る一連の手続きを公判手続きと呼び、刑事訴訟法、同規則で詳細に定められております。
第一審の裁判手続き
公訴の提起。検察官から裁判所に対して起訴状という書面を差しだすことによって事件が裁判所に移ります。被疑者はここで被告人と呼ばれる身分に変わります。被告人には起訴状の謄本が送られ、いかなる犯罪について起訴されたかが明らかとなります。
弁護人の選任。私選弁護人は被疑者の段階でも選任できますが、国選弁護人はこの段階に至ってはじめてつけられるようになります。そこで裁判所は起訴状の謄本と同時に、弁護人の選任についての照会状を被告人に送って、その意思を確認します。
保釈の請求。起訴されますと、それまで身柄を勾留されていた者は裁判所に対して保釈請求をすることができるようになります。罪証隠滅の危険のない以上、交通事犯ではおおむね保釈保証金を積むことによって釈放となります。
公判期日の指定。準備ができますと、裁判所は被告人に対し公判期日を指定するとともに、公判に出頭するよう召喚状を送ります。理由なく出頭しないときは、勾引状を発行して強制的に法廷に連行することもできます。
公判廷の審理、人定質問。裁判長から被告人の氏名、生年月日、職業、本籍、住居、出生地を質問し、被告人が人違いでないかどうか、替え玉でないかどうかを確認します。
起訴状朗読。検察官が起訴状を朗読し、審理の対象を公開の場で明らかにします。
黙否権等の告知 。裁判長から被告人に対し、公判廷では黙否権のあること、答えたくなければ黙っていてもよいこと、ただし述べたことは被告人にとって有利、不利にかかわらず証拠となることなど、被告人の権利について説明をします。
被告人および弁護人の事件についての陳述。起訴事実を認めるかどうか。あるいは間違っている部分や不満な点はどこなのか、法律的な争点はどうかなどについて意見を述べ、公判審理の争点を確定します。被告人がみずから有罪と認めたときは、簡易公判の手続きにより証拠調べを簡略化することもあります。この意見陳述は、普通の事件ですと五分程度ですから、詳しい陳述や意見は証拠調べや弁論のほうにまわされます。
検察官の冒頭陳述。簡易な事件では省略することもありますが、検察官かこれから立証しようとする事実についての全容を具体的に説明主張します。
検察官の証拠の提出と審理。検察官からこれまで捜査した証拠が提出されます。実況見分調書、供述調書、診断書等の書面、ガラスの破片、自動車の部品などの証拠物などです。証拠物は、法廷で関係者の目にはいるように示します。証拠書類は法廷で朗読されます。ついで証人の調べがなされ、被告人の質問などもこれらに併行して実施されます。
弁護人の冒頭陳述と証拠調べ、弁護側から主張すべき有利な事実を述べ、証拠を提出します。弁護側が犯罪事実を争わないときは、示談書、領収証など情状面の立証が重点となります。
検察官の論告・求刑。証拠調べが終わりますと、検察官が事件についての意見を述べ、刑はどれくらいが相当であるかの具体的な意
見が述べられます。判決は求刑を基準にして考えられるのが通常です。そこで検察官の求刑は注目されるわけです。
弁護人の最終弁論。弁護人が検察官の主張に対する反論や、被告人に有利な事情について説明し、被告人のために有利な判決がなされるよう最終的に意見を述べます。
被告人の最終陳述。最後に被告人が意見を述べます。弁護人の弁論で意見がでつくしているときには、被告人はとくに意見を述べなくてもかまいません。
判決宣告。法廷で裁判長から被告人に対し、口頭で判決文が告知されます。
以上の手続きは、簡単な事件ですと三〇分くらいで終わり、一週間後に判決になります。やや複雑な事件でも、一回一時間ないし二時間で三回くらいの審理で終結を迎えます。したがって有罪、無罪が争いとなり、現場の検証や鑑定がなされるという事件を除いては、ほとんど一か月以内に判決宣告に至るのが通常のようです。
控訴審の裁判手続き
一審の判決に不服があるときは、判決宣告の日から一四日以内に、言渡しをした裁判所を経由して控訴の申立てができます。控訴審は、東京、大阪などの高等裁判所で審理されます。
しかしこの控訴審は審理をやりなおすわけではなく、一審裁判の不服の点についてのみ審理をします。そこで当然に証拠調べの手続きなどに制約があって、やりなおしということはできません。
また、弁護人は審級ごとになっていますので、控訴審での担当弁護人を選ばなければなりません。保釈についても同様で、あらためて保釈手続きが必要になります。
控訴審は一審から記録が送られてきますと、ほぼ一ヵ月の余裕をおいて控訴趣意書の提出を命じます。弁護側はこの書面に控訴の理由を法律的に整理し、証拠にもとづいて、一審判決の不服な点や手続き上の問題点を明確にし、控訴の趣旨を記載することになります。
交通事犯の場合の控訴審の公判審理は、ほとんど証拠調べをすることなく終わります。したがって、一審でできる限り立証に努力しておかないとたいへんなことになるわけです。
上告審の裁判手続き
上告審の審理は、控訴審の判決に不服な場合、上告申立てによってはじまります。上告理由は、憲法違反などの問題に限定されております。上告理由書の提出などは、控訴審の場合と変わりありませんが、上告審では書面審理のみで、事実の取調べのないことが特徴です。
上告審の裁判は、最近では非常にスピードアップしており、交通事犯の場合は、受理して三ヵ月以内に終結を迎えるようになってきています。
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